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The Style Concierge

高級時計に群がる理由

高級時計はお金持ちの象徴といってもよい。最近はスマホの普及で時計を持つ人が減っているともいわれており、若い世代の富裕層の中には時計などを一切身に付けない人もいる。だが、ワインと並んで時計は今も昔も富裕層の象徴であることに変わりはない。

庶民が買えない超高級ブランドが完成形なのか?

高級時計がお金持ちの象徴になるのは、時間を知るという行為に対して、多額のお金をかける必要がないからである。単純に時間を知るだけなら、スマホで良いし、100円ショップで売っているデジタル時計でも事は足りるだろう。時間を見る行為に100万円や200万円、場合によっては1000万円をかけることは、ある意味で馬鹿げた行為なので、逆にこれができる人はお金持ちと見なされることになる。時計がお金持ちの記号として作用していることにはこうした背景がある。

時計と並んでお金持ちの象徴ともされる靴も同じ理屈である。お金持ちかどうかは靴を見れば分かるとも言われるが、その理由は靴は消耗品としての意味合いが強いからである。普通の人は消耗品に多額のコストはかけられない。その結果として靴にお金をかけられる人は、お金持ちだという解釈になる。

だが、時計も靴も、モノにもよるが、奮発すれば一般庶民でも買えないわけではない。お金がない人でも、少し無理して高級時計を身に付けたり、高価な靴を履くことでお金持ちに見られるのなら買う価値はある。その結果、特に高級時計については成金趣味の象徴にもなっているわけだ。

そうなってくると、本当のお金持ちは、さらに稀少価値が高く、手に入らない時計を持ちたいのではないか?こうした考え方が台頭してきたことで、極めて価格の高い超高級ブランドが登場してきた。

時計1個がフェラーリ1台分の価格では、庶民には手も足も出ない。こうした希少性をウリにした超高級ブランドの台頭で、お金持ちの記号としての時計論争は終わりを告げるのかと思われたが、実際はそうでもなかった。

これだけレアで価格の高いブランドが登場しているにもかかわらず、ロレックスのような従来からある高級ブランドの人気は富裕層の間でもまったく衰えていない。

では、超高級時計も買うことができるほどの富を持っているにもかかわらず、一部の富裕層はなぜ従来タイプの高級時計を好むのだろうか。そこには、お金のない人も、お金持ちの象徴として持ちたがるという独特メカニズムが深く関係している。このような類いのブランドは実は、富裕層にとってはひとつの投資対象となるからだ。

加谷珪一

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