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ソフトバンク 孫正義

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Photo:iStock.com/Sundry Photography

現代日本を代表する世界的富豪といえば、やはりソフトバンクの孫正義氏の名前が思い浮かぶだろう。ソフトバンクは今でこそ、巨大な携帯電話会社だが、もともとはソフトウェアの流通や出版という地味な業態からスタートしている。同社は果敢なM&Aを繰り返し、わずか30年で世界企業に成長したが、すべては創業者である孫氏の動物的カンがもたらしたものとイメージされている。しかし同社が成功した背景には孫氏なりの緻密な戦略がある。

展示会の買収に800億円など狂気の沙汰

孫氏がソフトバンクを創業したのは1981年のことである。わずか13年で株式の上場(店頭公開)を果たし、その後は、怒濤の買収攻勢で世界企業にのし上がった。孫氏は創業当初から1兆円企業を作ることを目標としており、業種の選択もその目標にしたがったものである。
 
孫氏がソフトウェアの流通業を選択したことには明確な理由がある。ソフトウェアの開発は新規性が高い成長性の高いビジネスだがリスクが大きく、事業には巨額の資金が必要となる。身一つで創業した孫氏にはお金がなく、そこまでのリスクは取れなかった。

成長性が高い分野でありながら、それほど資金を必要とせず、安定収益が得られる業態としてわざわざ流通業を選択しており、結果的にそれが功を奏している。ソフトの流通業をベースに企業規模を拡大し、パソコン・ブームの到来とともに多数のパソコン雑誌を創刊。一気に上場企業への切符を手にした。

普通の経営者であれば、ここで満足し、安定成長への道を模索するところだが、当初から1兆円企業を狙う孫氏の行動はまったく違っていた。上場で得た資金を惜しげもなく投入し、米国企業を次々と買収していったのである。

孫氏の買収案件は常に無謀だと言われ続けた。第1号の大型案件だったコンピュータ展示会コムデックスの買収では、ただの展示会に8億ドル(当時の為替レートで約800億円)もつぎ込むなど狂気の沙汰だという評価であった。実際、買収した展示会事業はソフトバンクの中核事業には成長していない。

しかし孫氏は展示会の買収で手に入れたかったのはそのような小さな果実ではなかった。孫氏が本当に欲しかったのはIT業界中枢へのパスポートである。

加谷珪一

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