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高級時計に群がる理由

流動性のある高級時計は一定の条件下では投資対象となり得る

いくら価値がなかなか下がらない高級時計とはいえ、中古品はあくまで中古品であり、新品と比べればその価値は低下する。高級時計は、株式や不動産、債券といった金融商品の代わりにはならない。だがすでに多くの資産を持ち、それを増やすことよりも守ることを重視する資産家にとっては、場合によっては高級時計も投資のポートフォリオになり得るのだ。

その理由は、彼等は非常時における資産の保全にまで気を回しているからである。一生働かなくても生活できる資産を持った人が次に考えるのが、資産の長期的な保全である。特に子供がいる場合にはその傾向は顕著となる。何か非常事態があっても、資産が残るようにしたいと切実に考えるようになるのだ。

平和に見える日本でもつい70年前には、戦争による国家破たんでハイパーインフレが発生し、現金は一瞬で紙くずになってしまった。確率が低いとはいえ、この先、どのような非常事態があるか分からない。このような環境にある富裕層は、資産の一部を現物にしておきたいという欲求が強くなってくる。

実際、日本よりも政府が信用できない中国では、貴金属に対するニーズが極めて強い。それはお金持ちの象徴として見せびらかしたいという欲求もあるが、非常時における資産保全手段でもあるのだ。

ここで重要となってくるのが流動性という概念である。いくら高価で価値が落ちないものであっても、世間に広く出回っていなければ、どこでも換金するというわけにはいかなくなる。実際、極めて高価な高級時計をショップに持ち込んでも、在庫負担が大きいなどの理由で断られてしまうことがある。

このような時、安心感が高いのが、多くの人が買いたがるメジャーブランドである。例えばロレックスなら、どのような店でも買い取ってくれるし、その買い取り価格も相場が安定している。中国の資産家がことさらにロレックスを好むのはこうした理由からである。

金融商品でも同じことだが、価値を維持するために必要なのは稀少価値だけではない。いつでも売り買いができるという流動性が強い武器になる。特殊なデザインをふんだんに使った5億円の戸建て物件よりも、利便性の高い場所にある1億円のマンション5室の方が、資産としての実質的価値は高い。

高級時計に積極的にお金を投じても、資産価値が増えることはほとんどないので、お金のない人が、投資目的で高級時計を買うことはほとんどお勧めできない。だが、一定の資産を持つ人で、非常時も含めたポートフォリオの分散という視点を持つならば、高級時計はひとつの投資対象となるかもしれない。そこで重要となるのは一定以上の流動性である。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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