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The Style Concierge

大山健太郎 アイリスオーヤマ創業者

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家庭用プラスチック製品で圧倒的なシェアを持つアイリスオーヤマ創業者の大山健太郎氏は、消費者という言葉を使わない。消費者という言葉には「事業者がモノを買わせるというニュアンスが感じられるから」というのがその理由である。アイリスオーヤマが成功した最大の理由は、徹底的な購買者目線の商品作りということになるだろうが、そこに至るまでの道は、かなり地道なものだった。大山氏はいわゆる天才肌の実業家ではないが、そうであるが故に、彼から学べることは多そうだ。

根底にあるのはクールさと徹底したリアリズム

大山氏が実業家になったきっかけは家庭の事情である。大学受験の年、父親がガンで倒れ、余命半年と宣告されてしまった。当時、大山氏の父親は大阪で大山ブロー工業という社員5人の小さな下請けメーカーを経営していた。父親は結局、翌年に他会し、大山氏は19歳で中小企業の社長に就任することになる。

当時は経営について右も左も分からなかったそうだが、大山氏の発想は極めて論理的だった。零細の下請けである以上、仕事を選べる立場ではない。当初は基本的に顧客からの要望に一切、ノーとは言わなかった。顧客の要望を徹底して聞いていれば、営業などしなくても注文が来るようになると考え、実際にその通りになった。

営業の必要がなくなるという段階で、利益率が一段階、改善することになる。少し余裕が出てきたところで、ノーと言わないポリシーをもう一歩進め、難易度の高い仕事をより積極的に受けるようにしたという。これが功を奏して、利益率はさらに向上した。

これら地道に繰り返した結果、下請けであるにもかかわらず、儲かる仕事だけを選べる立場になり、経営が軌道に乗り始めた。同社が自社製品に乗り出したのは、経営基盤を固めてからのことである。

注文がさばけない時には、社員が帰った後、大山氏が一人で深夜まで作業をすることもザラだったようで、現実はかなりのハードワークだったと思われる。しかし、大山氏には論理的なビジョンがあり、実現のためにハードワークが必要なら、迷わず選択するというしたたかさがあった。非常に目的合理的であり、これが大山氏の最大の強みといってよいだろう。

大山氏は家の事情で大学には進学しなかったが、時間を見つけては経営書を読破し、経営学やマーケティングの知識を身につけていった。これが最終的には、マーケティングの知見を生かした同社の物づくりに反映されているのだが、こうしたスキルの獲得も非常に計画的だ。

加谷珪一

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