ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

イングヴァル・カンプラード イケア創業者

エンリッチ_tomi_ikea
iStock:AdrianHancu

イケア創業者のイングヴァル・カンプラードは、物心がついた時から「商人」だった。好きこそ物の上手なれという言葉があるが、カンプラードはまさにその典型といってよい。大好きな商売を通じて、広告の効果や流通の仕組み、在庫の管理などを学んでいき、これが最終的に巨大企業となったイケアのビジネスモデルを支えている。商売を心から楽しめることは、いつの時代においても、巨万の富を得る近道のひとつである。

MBAの知識は現場の体験があってこそ生きてくる

カンプラードは、スウェーデンの小さな村の農場主の子供として生まれ、農場で幼少時代を過ごしている。カンプラードは、とにかく商売が好きで、すでに5歳の時には、ストックホルムで大量のマッチを買い付け、近所の家にバラ売りするという立派なビジネスを始めている。安く仕入れたものをバラ売りすると、わずかでも高く売れることが、とても嬉しかったとカンプラードは述懐している。

もう少し大きくなると、クリスマスカードやタペストリーなどの販売も手がけるようになり、やがては魚を売り歩いたり、食物の種や苗などを扱うなど、かなり本格的なビジネスになってきた。彼はこの頃からすでに完璧な商売人であった。

17歳になると、いよいよビジネスが大きくなってきたことから、商業高校に入学するより先に自分の会社を設立している。商業高校ではビジネスの基礎を学ぶことになるが、ここがカンプラードにとって人生の転機になったという。商業高校で学んだ、流通や販売、価格戦略などに関する知識が、これまでの体験と完全に一体になり、まさに彼の血肉になったのである。

彼に言わせれば商業高校では目から鱗のことばかりだったという。カンプラードのこの発言は注目に値する。

カンプラードの経験は、今の時代に当てはめれば、大学やMBAコースなどで経営学を学ぶことに近いと考えてよい。確かに、新しい知識を学ぶことで刺激を受けるかもしれないが、経営学を勉強したり、MBAコースに通うことで、目から鱗が落ちるという印象を持つ人はそうそういないだろう。

学校の勉強は嫌々するものであり、おまけに教科書の中みは無味乾燥であることも多い。教科書の内容を勉強することで感激する人は、よほどの勉強好きである。つまり、知識をただ知識として仕入れただけでは、なかなかその本質を理解することは難しいのである。

ところが、ある程度、実務について経験値を持っていれば、そして、その実務に関する関心が高ければ、無味乾燥な教科書はたちまちバイブルに変わる。カンプラードにとって、商業高校の授業はまさにそのような体験であった。

加谷珪一

Return Top