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アンダーズ開業、オークラ建て替えなどから探る、東京の高級ホテル事情

エンリッチ ホテル事情

日本の最高級ホテルのひとつであるホテルオークラが、とうとう同社のフラッグシップであるホテルオークラ東京(本館)を建て替える方針を明らかにした。東京五輪直前の2019年春の営業再開を目指すという。

これまでは建て替えに慎重だった

ホテルオークラ東京、帝国ホテル、ホテルニューオータニは日本の超高級ホテル御三家と呼ばれてきた。米国大使館に隣接するホテルオークラ東京は別格ともいわれており、外国要人の宿泊も多い。今年4月に来日したオバマ大統領は、日本政府が申し出た迎賓館での宿泊を断り、わざわざオークラに滞在したほどである。

極めて高いブランドを持つホテルオークラ東京だが、経営は絶好調というわけではない。東京ではこのところ外資系高級ホテルの進出が相次いでおり、顧客が奪われる状況が続いているからだ。同ホテルも開業から50年以上が経過しており、施設の老朽化と客単価の低下が懸念されていた。

実は、ホテルオークラ東京の建て替えについては、過去、何度も取り沙汰されてきたのが、同社は建て替えについて慎重な姿勢を崩していなかった。その理由は2つあるといわれている。

ひとつは、同ホテルの建つ場所が、大倉財閥の邸宅跡であり、同社にとっては極めて重要な場所であること。もうひとつは、その立地条件である。

オークラの住所は港区虎ノ門だが、一般的にイメージされる虎ノ門界隈とは異なり、ホテルの近辺は、周囲を見下ろす小高い丘になっている。これが周辺との隔絶感を演出しており、米国大使館と隣接していることもあって、独特の雰囲気を醸し出していた。これは高級ホテルとしては最高の立地条件なのだが、オフィスビルとセットになった大型複合施設となると話は少し変わってくる。

アンダーズ開業がひとつのきっかけ?

だが、こうしたオークラの慎重姿勢を変えるきっかけになったといわれているのが、同じ虎ノ門地区にオープンした「アンダーズ東京」の開業である。

アンダーズ東京は、6月に開業した複合ビル「虎ノ門ヒルズ」の47階~52階に入っている。アンダーズ東京は米ハイアットグループの高級ブランドで、客室は164室、宿泊料金はスタンダードルーム1泊6万円~となっている。ビルの最上部に位置し、プライベート感を演出したコンパクトな高級ホテルである。800室近い客室を持ち、外国要人の宿泊や、大規模なバンケットを想定したオークラとは直接比較する対象ではない。

ただ、都内の高級ホテルは地方在住の医師や経営社が東京滞在時に利用するという側面があり、その意味では、あらゆるタイプの高級ホテルが競合になる。業界内で、アンダーズの開業で最も影響を受けるのはオークラといわれているのはそのような理由からだ。

オークラの新しい施設は、高さが200メートルの高層棟と、80メートルの中層棟の2つのビルからなる。客室数は550室を予定しており、400室を備える現在の本館より150室増えることになる。高層棟にはオフィスも入居する予定となっており、完全に複合施設というイメージだ。

実は、オークラの隣接地である旧虎ノ門パストラル(東京農林年金会館)も、森トラストが買収に成功したことで、再開発の準備が着々と進んでいる。こちらも超高層オフィスビルを中心とした複合施設であり、これらの状況を総合的に考え、同社は建て替えに踏み切ったものと考えられる。新施設開業後における周辺地域の風景は大きく変わることになるだろう。

このところの円安で訪日外国人の数は増加しており、宿泊施設は不足気味だ。また、東京オリンピックの開催も控えており、当面は十分な集客が期待できるといわれている。だが高級ホテル業界の顔色はあまりすぐれない。彼等はむしろ東京オリンピック後を危惧しているからである。

東京オリンピック後はどうする?

現在、相次いで開業している外資系の高級ホテルは、基本的に米系ホテルの基準が適用されているので、客室の面積が広く、客単価も高い。だが国内のホテルは、欧米サイズよりもワンサイズ小さい部屋が多い。

単純に米系ホテルとの競合であれば、客室数を減らし、客単価を上げるという戦略が正しいが、アジアからの訪日観光客やオリンピック関係の顧客を考えれば、客室数を優先した方がよいという考えもある。一方で、オリンピック特需が終わった後、どのような顧客層が中心となるのか判断が難しいという問題もある。

日本の高級ホテルは基本的に自社所有の直営というところが多い。一方、ヒルトンなど、海外のメガ・ホテルチェーンは、自社所有ではなく運営受託に軸足を移しており、非常に柔軟な運営体制となっている。ヒルトン・グループは4000以上のホテルを抱えているが、自社保有のホテルは全体の数%しかない。ちなみに、同社グループの高級ブランドであるコンラッド東京は、森トラストが所有している。

10月9日には、同じくヒルトン・グループの高級ブランドであるウォルドルフ・アストリア・ニューヨークが、中国企業に売却されたというニュースが報じられた。同ホテルは、言わずと知れたニューヨークの超名門ホテルで、天皇陛下をはじめ各国の元首が宿泊に使用してきたほか、アイゼンハワー元大統領やマッカーサー元帥、マリリン・モンローなどが自邸として使用していたこともある。

ただ最近は設備の老朽化が目立っており、中国の保険会社への売却と同時に、全面的な改装工事が実施される。ただ、ホテルのマネジメントは、今後100年間ヒルトンが行う契約になっており、実質的には何も変わらない。

長期的な視点に立った場合、日本の高級ホテルもこうした運営受託という方向に舵を切るのもひとつの戦略である。

 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、
その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。
億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)
加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

加谷珪一

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