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スマホ向けキュレーション・アプリ「Gunosy」上場で注目のニューリッチ

グノシー上場

スマホ向けのニュース・キュレーション・アプリを提供するグノシー(Gunosy)が、4月28日に東証マザーズに上場することが決まった。サービス開始から3年半、法人になってからは、わずか2年半のスピード上場である。

上場後の時価総額は400億円?

同社が提供するアプリの最大の特徴は、利用者の嗜好に合わせて自動的にニュースを選択する仕組みにある。同社が開発したアルゴリズムによって、利用者のツイッターでのツイート内容やフェイスブックの書き込み、はてなブックマークの情報などから、 個人の好みを判断し、本人にもっとも最適化されたニュースを配信する仕組みだ。

同社が配信するニュースはマス層をターゲットにしたもので、潜在顧客の数は極めて多い。同社アプリの累計ダウンロード数は800万を超えているほか、テレビCMなど広告宣伝を積極的に行っていることもあり、かなりの利用者を獲得していると思われる。

現在、先行投資を行っている最中であり、前期決算は売上高は約3億6000万円、純損失は約14億円と大幅な赤字である。だが、2015年5月期の半期決算では、売上高が13億円と急拡大し、純損失も3億円に縮小した。このままのペースで拡大が続けば、近いうちに収益ラインに乗せることが可能となるだろう。

グノシーに対する市場の期待は高く、上場後の時価総額が400億円になるとの見方も出てきている。そこで注目を集めるのが創業者のキャピタルゲインである。

同社は、現在CEOを務める福島良典氏が東京大学の大学院在籍中に設立した。その後、本格的に展開するにあたり、起業家であり、グリーに在籍した経験もある木村新司氏がエンジェル投資家として参画している。上場申請時における同社の筆頭株主は木村氏で約4割の株式を保有する。CEOの福島氏も3.5%を保有しているが、何と言っても木村氏のシェアの大きさが目立つ。

もし同社が無事、上場に成功し、400億円の時価総額が付いた場合、木村氏は160億円もの資金を手にすることになる。金額も驚きだが、さらに注目すべきなのは、木村氏にとってグノシーは2回目の成功という点である。

日本でも連続起業家がメジャーになってきた

木村氏は東京大学理学部物理学科卒業後、ドリームインキュベータなどを経て、スマホ向けの広告配信管理システムを開発する株式会社アトランティスを2007年に創業している。同社は2011年にグリーに買収され(推定買収金額22億円)、ここで木村氏は1回目の成功を手にしている。その後、2回目のチャレンジとして、投資家兼経営者としてグノシーの創業に関与し、同社の収益化に貢献した(木村氏はすでに取締役を退任)。

木村氏のように、短期間に何度もビジネスを成功させる起業家のことをシリアル・アントレプレナーと呼び、米国ではこうした人物が多数活躍している。

もっとも有名なのは、ペイパル創業者の一人で天才起業家と呼ばれるイーロン・マスク氏であろう。マスク氏は、1971年に南アフリカで生まれ。10歳の時にプログラミングを独学でマスターし、ソフトウェアを販売して大金を稼ぐなど、子供の頃から天才的な能力を発揮してきた。

苦労の末、米国への移住を果たし、米スタンフォード大学の大学院に進学するもわずか2日で退学。起業家への道を志す。ペイパルの成功を皮切りに、誰もが知る電気自動車ベンチャーのテスラ・モーターズや、米国の民間宇宙開発会社であるスペースX社など、次々とベンチャービジネスを成功させている。

日本ではなかなかこうした人物は生まれなかったが、最近では、木村氏のように、連続して事業の立ち上げに成功する人が増えてきている。暮らしに関する情報を扱うネット・メディア「iemo」を立ち上げDeNAに売却した村田マリ氏など、女性の連続起業家も登場している。

連続起業家が日本でも増えてきた要因は、スマホの普及によるネット・インフラの質的な変化にある。スマホというネットのアクセス手段が登場したことで、ほぼ全国民がネットに不自由なくアクセスできるようになった。これによって、コンテンツのニッチ化が可能となり、コンパクトなネット・ビジネスを短期間で軌道に乗せることが可能となったのである。

またクラウド・ソーシングの発達でエンジニアやデザイナーを容易に雇えるようになったことや、インフラ・コストが限りなくゼロに近くなったことも大きい。事業の立ち上げに必要なコストは10年前に比べて格段に小さくなっており、大きな資本を用意することなく、すぐにビジネスを立ち上げることができる。

先見性のある起業家はあっという間にサービスを立ち上げ、一方、時間を買いたい大手のネット企業は、上場する前に、こうしたベンチャー企業を一気に買収してしまう。ごく短期間にちょっとした資産家が次々と誕生する仕組みだ。

ニッチなネットビジネスはまだ始まったばかりであり、今後もこうした新しいスタイルの資産家がますます増えてくるだろう。

 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)など。2014年11月28日発売開始「稼ぐ力を手にするたったひとつの方法」
清流出版 1620円
稼ぐ力を手にするたったひとつの方法加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

加谷珪一

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