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10131台 
年間生産台数が初の1万越え

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遂にフェラーリの年間生産台数が1万台越えをした。2019年の実績として発表された数字は1万131台である。1980年代に2000台前半であったことを考えるとこの40年で四倍となるが、それをどのように評価したらよいだろうか?

常々、当連載でも述べてきたように彼らは数量を追求していない。逆に意図的に減らしてしまうという、普通のメーカーが見るなら正気か、というようなことまでしてしまうのがフェラーリだ。

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2012年に7318台という最高記録を達成したのに対して、2013年は6922台で前年割れした。しかし、これは需要が減った訳ではなかった。そして、ここでフェラーリの将来を巡る大きな議論が行われたのだった。

その背景にあったのはモンテゼーモロVSマルキオンネだ。モンテゼーモロ フェラーリ会長はその当時、急激な拡大をみせていた中国市場にブランド価値の毀損という危機を感じていた。そこで、中国市場向けの販売数量を絞ったのだった。中国市場の年間販売台数は500台を超えており、フェラーリの世界セールスにおいて大きな比重を占めるようになっていた。

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左:モンテゼーモロ、右:マルキオンネ

彼は元々フェラーリの希少性を保持する為、いたずらに販売台数を増やすべきでないというポリシーを持っていた。2001年当時では適正な台数は3000台あまりとして、以来、市販車両販売以外からの収益の強化を目指した。しかし、これはフェラーリ株主の利益を代表し、FCAグループの全権をも握るマルキオンネにとって、認められるものではなかった。彼はアニエッリ・ファミリーのジョン・エルカンを担ぎ出し、フェラーリの株式上場を念頭においていた。企業規模を拡大していかねば、これからの自動車マーケットではいくらフェラーリとはいえ生き残れないというのが彼の考えであったからだ。そして、この確執の結論はその翌年に出された。モンテゼーモロは退任し、フェラーリをコントロールするマルキオンネは2015年にフェラーリを株式上場させたのだ。マルキオンネによる拡大路線の勝利であった。

しかし世の中何が起こるか解らない。マルキオンネは病から2018年に鬼籍に入ってしまった。しかしその路線は引き継がれ、フェラーリの販売台数はどんどんと増加していった。昨年もフェラーリは攻めた。希少性を維持する為、単一モデルの供給台数を大きく増やす訳にはいかない。ならばと、一年間で5モデルを発表するという物量作戦に徹底した。F8トリブート、量産ハイブリッドのSF90ストラダーレ、F8スパイダー、812GTS、そして最後にローマが登場した。

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SF90ストラダーレ
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同モデルはフェラーリ初の量産ハイブリッド

フェラーリはどこまでも運がいい。昨年にこれらをしっかりと受注してしまったから、新コロナ禍においても、直ぐに業績が落ち込むということはない。尤も、需要に併せて供給をこまめにコントロールするという、フェラーリの少量生産+受注生産システムの大きなメリットでもある。昨年のニューモデルを5台という強気な戦略には、否定的な見方もないわけでもなかった。幾ら一台あたりの供給数は少なくとも、既発売モデルのバリエーションをあまりに早くリリースし過ぎるのはカニバリズムの恐れがあるのでは、という見方だ。しかし、そこには王者フェラーリといえども、ライバルの動向も気にしない訳にはいかないという事情があった。

ランボルギーニは2019年に8205台という年間販売台数の新記録を達成しているのだ。これは前年比で43%の増加であり、少し前のフェラーリに肉薄する数値だ。その内訳はV10エンジンのウラカン2139台、V12のアヴェンタドール1104台、そしてSUVのウルスの4962台となる。2000年当時はわずか294台しか販売していなかったという歴史を鑑みるなら、劇的な拡大だ。ラインナップの比率を見るならば、SUVであるウルスの比率がとても高いことに気づく。この希少性を追求するハイパフォーマンスカー・マーケットにおいて、実用性という単語は諸刃の剣でもあるから、SUVの立ち位置には慎重にならざるを得ない。しかし、ランボルギーニはVWグループ内のポルシェ・カイエン、ベントレー・ベンテイガといった独特のスタンスに立つ姉妹車達のイメージと、それらのAWDコンポーネンツを引き継ぐことができた。SUVの開発とマーケティングにおいては恵まれたスタンスにあった訳だ。

エンリッチ編集部

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