ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

10131台 
年間生産台数が初の1万越え

もともと、ランボルギーニのブランドカラーにはバリエーションがあった。硬派なスポーツカーというところだけではなく、柔軟性を持っていた。大型ラグジュアリークーペのエスパーダも存在したし、元祖ラグジュアリーSUVとも言えるLMシリーズすら存在した。であるから、このウルスをランボルギーニのブランディング・イメージからはさほどズレないところで、展開することができた。

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80年代に作られたランボルギーニLM002 。同社は既にSUVのDNAを持っていた

フェラーリもSUVの開発を明言しており、近い将来のデビューが期待されている。しかし、幾つかの点において難易度が高くもある。ランボルギーニなどと違って、“F1などのコンペティションマシンをそのルーツとする硬派なスポーツカー”を基本的に謳ってきただけに、フェラーリがSUVを出すからには、相当に他ブランドと差別化されたモデルを用意しない訳にはいかない。何せ主要スポーツカーメーカーのSUVとしては最後発であるのだから。

フェラーリにとってSUV開発など朝飯前だろうと貴殿は思われるかもしれないが、それは必ずしも正しくない。AWD(全輪駆動)などのコンポーネンツは確かになんとでもなる。今や関係性が表だっては切れてしまったが、FCAグループとの技術協力などもありえるだろうし(それをフェラーリの顧客が望むのかは別問題だが)、自社内にもそれなりの蓄積はあるだろう。しかし、クルマ作りの文化というのはそう簡単に変わることは出来ない。70年以上2ドアのクルマしか作ってこなかったフェラーリの開発部隊にとってドアが四枚あるというのは、言ってみれば、イタリアの料理人が刺身をさばくほど遠い世界のことなのだ。事実、その開発はかなり難航しているとマラネッロ内部から聞こえてくる。

ランボルギーニ・ウルスは、ランボルギーニ全体の総生産量の半数を占めるほどのボリュームとなってしまったが、さすがにフェラーリはSUVにそこまでのボリュームを持たせることはしないと想像する。生産が始まっている最新モデル「ローマ」はコンペティションモデルのような硬派な立ち位置と対極にあるGT(グラントゥーリズモ)である。

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2019年最後に登場したローマ

このモデルはクルマ作りの哲学、マーケティング、様々な部分で今までのフェラーリの文脈から少し離れたところに位置する。そう考えるとローマは来るSUVのティザー的なキャラクターを帯びているのだろうか

フェラーリがその希少性を守るため、どこまで生産台数のコントロールというやせ我慢が出来るかは、そう簡単に予想できない。しかし、電動化を積極的に進めながら、コンスタントにバリエーションを増やし続けていくのは間違いない。この年間1万台という数字が一つの通過点となるか、それとも将来にわたっての一つの基準となるのか?それは来るSUVの戦略次第であるだろう。

トヨタの900万台あまりという数字と比較するとフェラーリの1万台というのは非常に小さい数字ではある。しかし、ブランドの希少性を維持するため、絶えず市場動向を見ながら適切な数量を供給するという考え方は間違っていないのではないかと思う。これから自動車市場がどんどん拡大していくというバラ色の夢を見続ける訳にはいかないのだから・・・。


越湖 信一(えっこ しんいち)
EKKO PROJECT代表

イタリアに幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンタメビジネスに関わりながら、ジャーナリスト、マセラティクラブオブジャパン代表として自動車業界に関わる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリストとして活動する他、クラシックカー鑑定のイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に「Maserati Complete Guide」など。


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▼越湖信一著
 
フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング
 
KADOKAWA/角川マガジンズ 2,484円
 
現代の日本のものづくりには、長期的に見て自分達のブランド価値を下げたり、本来苦手なコモディティビジネスに自らを落とし込む悪い癖がある。クルマに興味の無い人にこそ、是非この本を読んでもらいたい。機能的に理に適っていないスーパーカーにこそ、人間が無駄なものを欲しがる本質のヒントがある。(カーデザイナー 奥山清行)

エンリッチ編集部

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