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大戦の否定から生まれた
新たな潮流「ダダイズム」

時代は下り20世紀に入るとダダイズムというムーブメントが生まれます。これは第一次世界大戦に対するカウンターとして、人間の愚かさから生じた既成概念の否定や価値の解体、破壊する思想が芸術に組み込まれていきます。

マンレイ(画像:Hannah Grover)
マンレイ(画像:Hannah Grover

こちらはマン・レイの『贈り物』という作品。釘のついたアイロンは本来の用途をなしません。しわを伸ばすべくアイロンが衣服をズタボロにしてしまう。これは大戦を皮肉っているのです。そんな作品に『贈り物』とつけるセンスも見逃せませんね。

マルセル・デュジャン『泉』
マルセル・デュジャン『泉』

ここから考えさせられるアート、現代アートが始まったといわれるマルセル・デュシャンの『泉』。単なる男性用便器の向きを変えて「R.Mutt」とサインしただけの作品です。

「R.Mutt」というサインについては、バカ、間抜けという意味の「mutt」、便器メーカーの「Mott Iron Works」、当時の新聞連載マンガ「Mutt and Jeff」など、多くの意味が含まれているようです。

それまで、芸術とは作家がゼロから生み出すものと思われていた常識を覆し、「レディメイド(既製品)」もアートに成り得ると唱えた新しい芸術の潮流を生み出しました。これをコンセプチュアルアート=概念芸術といいます。これにより芸術の定義や価値が白紙に戻され、現代アートの歴史が始まるのです。今から約100年前の話です。

フェリックス・ゴンザレス=トレス(画像:stephane333)
フェリックス・ゴンザレス=トレス(画像:stephane333

1957年にキューバで生まれたフェリックス・ゴンザレス=トレスは、床一面にキャンディを敷き詰めた作品が有名です。

彼はコンセプチュアル・アーティストの一人で、並べられたキャンディは、自分と恋人の体重を合わせた重量の分だけあります。いわゆる彼ら二人のボディーを表します。観客はそのキャンディを自由に食べてOK。徐々にそのキャンディは消えてなくなります。ゴンザレス=トレスは恋人をエイズで亡くしており(本人も96年にエイズで死去)、観客に食べられて減っていくキャンディは、エイズによって徐々に蝕まれていく恋人や自分のカラダを表現しており、死へ向かうメタファーになっているのです。

キャンディが全部なくなったら作品はどうなるのかって? 大丈夫です、キャンディは必要に応じてトレス財団から補充されるのでなくなることはありません。

ここまで来ると、芸術の定義はなんなのだろう?と考えさせられますね。観客が自由に参加できて、作品の核となるキャンディもいくらでも補充される。このように、「確固たるモノ」が存在しない芸術作品はインスタレーションと呼ばれます。

フランシス・ベーコン『キリスト磔刑図のための3つの習作』(画像:cea +)
フランシス・ベーコン『キリスト磔刑図のための3つの習作』(画像:cea +

続いて紹介されたのは、20世紀を代表する具象作家フランシス・ベーコンの『キリスト磔刑図のための3つの習作』。この作品はピカソの『ゲルニカ』に大きく影響を受けています。

作品はタイトルとは大きく違い、十字架はなく、キリストにも見えません。この少し不気味な作品は肉体と憎悪の強烈な叫びを表しており、いまにもその叫び声が聞こえてきそうな強烈な印象を残します。後にこの作品はエイリアンをデザインしたギーガーに影響を与えました。

エンリッチ編集部

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