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Vol.2 現代アートとは? 1/2

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Photo:iStock/Ayman Haykal

アートディーラー/解説者として知られる、三井一弘氏による本連載。前回までは、現在に続くまでのアートの歴史を紐解いた。そして今日、現代アートはグローバルで流通し、世界中のファンを魅了しているが、そもそも「現代アート」とは何を指すのだろうか。今回は、その定義に迫っていこう。(Vol.1から読む)ーーー

ウォーホールを区切りに、アートは現代のルネサンス期へ

前回までは、紀元前からおおよそ戦後まで、西洋美術の歴史をたどってきました。「古典を作る時代」「古典を美術アカデミーとしての権威にする時代」「権威を解体する時代」の3つに大きく分けることができ、その時々の国家の隆盛に伴い様変わりしてきたということです。

西洋美術の世界は、生成から隆盛、停滞、破壊、再生の繰り返しでした。大きな流れでもそうですし、その中の短いタイミングでもスクラップ&ビルドが起きて、その結果として発展を遂げています。かつて、14世紀末~16世紀にかけてのルネサンスもそうで、これは古代や古典への回帰、人間性を尊重したギリシア・ローマ文化への再生がテーマでした。人間の性でしょうか、文化や社会はもちろん戦争もそうかもしれませんが、人は何かを作り上げると破壊へと走り、さらには再生という道をたどり、アートもそれは変わりません。

ならば、戦後からいままでは権威を解体した後、新たなる再生期にあたります。そこに登場したのが現代アートであり、リアルタイムのルネサンスと言えそうです。

区切りになったのは、60年代に入りポップアートを世に知らしめたアンディ・ウォーホールの登場です。現代アートの祖は、男性用便器をアートにするなど、美術にコンセプチュアルの概念を持ち込んだマルセル・デュシャンだと思いますが、19世紀のオールドマスター、20世紀のモダンアートという流れに一区切りをつけ、ポップアートを大衆に受け入れさせたウォーホールの存在はあまりにも大きすぎます。時代で指すなら、第二次世界大戦前はモダンアートがトレンドで、戦後になりコンセプチュアルアート、ポップアートが生まれ、現代アートへつながっていったという解釈です。

では「現代アート」とは具体的に、どういった美術を指すのでしょうか。そのヒントは、デュシャンの「従来の絵画は目と技術に頼りすぎていて網膜的」という言葉に隠されています。

印象派の作家たちは、写真が登場したことにより本物そっくりに描くことから離れ、さらにはモダンアートの作家たちも抽象的であったり、自由闊達に作品を作り始めます。ところがデュシャンはそれでも「眼に頼りすぎている」と既成概念を否定したのです。これにより、観念により生み出される表現を探求し、「芸術作品の本質はそれ自体の美しさではなく、観る人の思考を促すかどうか」という一つの答えにたどり着きました。これぞ、現代アートに共通する考えです。つまり、絵画や彫刻といったジャンルにとらわれず、オーディエンスに何らかの影響を与えるのであれば、それは芸術だということです。

現代アートの誕生には時代背景も深く関係しています。戦後、欧州は戦災で貧しく美術どころではありません。戦禍がなく好景気に沸いていたアメリカには、迫害を受けたユダヤ人をはじめ多くの人が移り住み、アートの中心地はパリからアメリカへとシフトしました。基本的に、アートは経済的に豊かな国や地域に集まりやすく、そういった場には人やモノが集まり、おのずと文化・思考は醸成・洗練され、新たなアートの土壌になりやすいからです。

ウォーホールをはじめとするポップアートが受け入れられたのにも理由があります。1940年代~50年代にかけてアメリカ、特にニューヨークを中心に展開していた抽象表現主義はあまりにも難解で理解しがたかったのです。ジャクソン・ポロックによるアクション・ペインティングなどは斬新でしたが、あまりにも突飛というか……(苦笑)。対して、広告やコミックといったビジュアル表現をモチーフにしたポップアートはわかりやすく、富裕層や資産家だけではなく、広く大衆の心に響いたのです。そうすると、現代アートは「ポピュラー」であるというのも要素かもしれません。ただし、単にビジュアルが観衆に刺さるだけではなく、ウォーホールであれば、どことなく死生観が伝わるなど、作家の人間性、メッセージがこもっていることもポイントです。

エンリッチ編集部

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