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「アートフェア東京」北島輝一
貨幣の価値を担保するのがアート

エンリッチ アートフェア 北島氏

2005年より開催されている「アートフェア東京」は、古美術、工芸から現代アートまで、さまざまなジャンルを取り扱う国内最大のアート見本市だ。今年の「アートフェア東京2016」は5月12~14日の3日間にわたり東京国際フォーラムで開催され、パリや北京など海外19のギャラリーを含む157ギャラリーが参加する。

同イベントのマネージング・ディレクター北島輝一氏は金融の世界から転身した異色の経歴の持ち主。金融の世界とアートの共通点、アートとお金の関係、アートの技法からみた日本と西洋の差など、金融のフィルタを通した独自のアート理論を聞く。

金融とアートは「新しい価値」
を創出した者が評価される世界

ENRICH(以下E):北島さんはアートの世界では珍しい金融出身とお聞きました。

北島:はい、この世界に入る前は野村證券やJPモルガンでトレーダーを11年間やっていました。海外だと金融からアートの世界に転身する人はそれなりにはいるものの、セールスやプライベートバンキングが多くて、僕のようにトレーダーから転身するのは珍しいと思います。

E:金融とアートってまったく正反対の世界に思えるのですが、実際どうなんでしょう?

アートフェア東京2015 会場風景(撮影:岩下宗利)
アートフェア東京2015 会場風景(撮影:岩下宗利)

北島:ベンチャー投資のシステムとアート投資は似ていると思うんです。株式市場は人間の活動に対して新しい価値を投げかけると値が上がるんです。アートの歴史を見ると、その時代に新しいこと、新しいアイデアを提案した者が評価される。たとえば、印象派だったり抽象表現主義(※1)だったり。

それって株式マーケットで先進的なことをやった会社が評価されることと同じなんです。たとえば、インスタグラムは売上がゼロといわれている状況でもフェイスブックに10億ドルで買収されましたよね。

(※1)戦後から1950年代にかけてアメリカで盛り上がったアートの流れ。代表作家はジャクソン・ポロックやマーク・ロスコなど。

E:エポックメイキングなものが評価されるということですね。

北島:そうです。だから社会と密接に関わりがあります。昔は神様や王様が世界の価値基準を決めていたけれど、神様を自分たちで選ぼうというのが資本主義です。あるマーケットがあって、値段を物差しにしてモノの価値に順番をつける。それが資本主義。

ジャクソン・ポロック『One: Number 31』。(画像:Detlef Schobert)
ジャクソン・ポロック『One: Number 31』。(画像:Detlef Schobert)
サンフランシスコ近代美術館に飾られたマーク・ロスコ『No.14』。(画像:Naotake Murayama)
サンフランシスコ近代美術館に飾られたマーク・ロスコ『No.14』。(画像:Naotake Murayama)

「ビジネス」とか「人間の活動」に順番をつけるのが株や金融の世界。かつては王様がそれを決めていたけど、「マーケットによって順番をつけましょう」というのが金融なんです。それに対して、「人間の価値」に順番をつけるのがアートの世界だと思います。だから、市場原理型の資本主義のマーケットといえます。

E:「アートは一部の権力者が都合のいいように価格を操作している」といった意見もあります。

北島:アートの価値は長い時間をかけないと見えてきません。短い時間だと「誰かが意図的に操作してるんじゃないか?」というように思えるかもしれないし、実際そう見えることもある。でも、金融といっしょで長い時間で見るとそれが一定のレベルに収斂されていくように見えます。

エンリッチ編集部

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