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富裕層と時代の流れ

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富裕層になるための基本的な考え方は時代を問わないが、具体的な手法は時代によって変化する。時代の変化をうまく捉えることができないと、継続してお金を稼ぐことは難しい。時代の変化に追いつけなくなり、没落する資産家は少なくないのが現実だ。

ではこうした時代の変化やイノベーションをいち早く知るにはどうしたらよいのだろうか?残念ながらこれに対する完璧な答はない。だがヒントならたくさん存在している。

すでに起こった未来を見つけ出す

著名な経営学者であるピーター・ドラッカー氏の名言に「すでに起こった未来」というものがある。それは、非連続的な未来であっても、急に訪れるものではなく、断片的ではあるが、すでに起こっていることがベースになっているという考え方である。

例えば、今流行りのスマホやタブレットを例に考えてみよう。

アップルのiPhoenやiPadは革命的な商品といわれている。確かに、パソコンを中心に展開してきたIT業界の流れがこの製品の登場で一気に変わってしまった。その意味で、iPhoneは非連続的なイノベーションだったといってよいだろう。だが、革新的に見えるiPhoneも、同じコンセプトの商品はかなり前から存在していた。

シャープが2001年に発売したザウルスという商品はその典型例である。アップル自身も、1993年にニュートンというザウルスにかなり似たコンセプトの製品を投入している。アップルのニュートンは当時、まったく受け入れられず、同社は数年でこの分野から撤退しているのだ。シャープの製品は同じ名称での製品展開がしばらく続いたが、こちらもやはりフェード・アウトしてしまった。

両製品と現在のiPhoneの最大の違いは、当時はインターネットと携帯電話がこれほど普及していなかったという点である。例えばニュートンは、当時主流であったパソコン通信のネットワークを通じて、現在のiPhoneと同じ機能を提供しようとしていた。アプリに関するコンセプトも基本的にはまったく同じである。だがインターネットほどの利便性や普遍性がなく、利用者には受け入れられなかった。

ビジネス的にはどちらも失敗に終わったわけだが、現在のiPhoenやiPadの基本的なコンセプトはとっくの昔に姿を現していたのだ。アップルはむしろ、ニュートンをもう一度復活させようという思いでiPheonを商品化しており、事情を知っている人にとっては必然的に登場した製品といってよい。

世の中にある製品やサービスにそれなりの注意を払っていれば、こうした商品がいずれ登場してくることは、予想できたのである。

すでに起こっている未来を見逃してしまう最大の原因は、現状に対する先入観である。

ニュートンの例では、外出時には通信回線に常時接続する手段がないので、この製品は普及しないと言われた。実際、通信環境が貧弱であったことがプロジェクト失敗の原因であった。だが逆に考えれば通信環境さえ整えば、そのコンセプトは一気に開花することになる。携帯電話とインターネットの普及がまさにそれを後押ししたのである。

時代の変化に追い付けない人というのは、新しいものを目にする機会が少ないのではなく、目に触れても無価値と判断してしまっている可能性が高い。ニュートンやザウルスの例を知っていれば、ネット環境が整った今、iPhoenが登場したことの意味はすぐに理解できたはずである。

加谷珪一

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