ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

499台 フェラーリの生産台数が中途半端なワケ

エンツォ・フェラーリが
常々語っていたと言う社訓

大人気モデルとなったが、ブランド戦略的に課題を残すこととなったF40の後を受けて、次のスペチアーレ、F50は会長のモンテゼーモロから、349台限定というなんとも中途半場な生産数量がアナウンスされた。これはエンツォ・フェラーリが常々語っていたと言う社訓、“欲しがる客の数より一台少なく作れ”に基づいた戦略であると説明された。そしてこの文言は、モンテゼーモロのスピーチには必ず出てくる座右の銘ともなったのだ。手に入れそこなったひとりはさらに熱心に次モデルを欲すという自信と、その枯渇感が独り歩きして神話となってくれるというのがエンツォ・フェラーリの考えであった。F50の購入申込者に関しては充分な審査が行われ、すぐに転売したりしないことを条件として販売された、

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フェラーリF50

フェラーリ創立55周年記念としてデビューした、奥山清行のデザインによるエンツォにおいても、もちろん同様な戦略が取られた。エンツォはカーボンファイバーなどを多用し、ロードカーとしては考えられないほど贅沢な作りであった為、製造原価も上がり、前モデルであるF50と比べて販売価格はかなり高くなると想定された。普通のメーカーなら、前作F50ベースに、そこそこ上乗せした販売価格を定めて、利益を出すべく販売目標数を設定する。そうすると、間違いなくF50より相当多く売らないと利益が出ないということになる。しかしフェラーリはそこが違う。セールスネットワークの顧客リストから具体的に何台潜在的なポテンシャル・ユーザーがいるかを分析するのだ。するとF50よりもかなり強気の価格設定をしても買うであろう顧客が、相当数存在することが解った。そこで、絶対に売れる台数を見極めてから、販売価格を決め、社訓に従い、それより一台少なく販売台数を設定する。開発・製造コスト、そして利益含む総額を台数で割って車両価格が決まる。つまり玉虫色の計画ではなく、確実に利益を生み出すことができる。

顧客からは既にもらっている前金は開発経費にまわすこともできるし、生産台数が決まっているから、製造工程でもロスが少なくてすむ。

このように決まった顧客へ売ろうと考えているのだから、多くの不特定多数にニューモデルに対する興味を持ってもらう必要もない。従って、宣伝販促に余計なコストをかける必要もない訳だ。ちなみにエンツォに関しては、フェラーリに忠誠の深い顧客に絞った状態ですら、3000台ほどの注文が全世界から押し寄せたそうだ。しかし彼らはどうしても作らねばならなかった数十台を除いての追加生産は行わなかった。これはフツウのメーカーならばなかなかできるものではない。そんなポリシーをフェラーリは頑なに守っている。だからこそ、フェラーリを手に入れることを夢見る人々が絶えないのだ。


越湖 信一(えっこ しんいち)
EKKO PROJECT代表

イタリアに幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンタメビジネスに関わりながら、ジャーナリスト、マセラティクラブオブジャパン代表として自動車業界に関わる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリストとして活動する他、クラシックカー鑑定のイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に「Maserati Complete Guide」など。


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▼越湖信一著
 
フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング
 
KADOKAWA/角川マガジンズ 2,484円
 
現代の日本のものづくりには、長期的に見て自分達のブランド価値を下げたり、本来苦手なコモディティビジネスに自らを落とし込む悪い癖がある。クルマに興味の無い人にこそ、是非この本を読んでもらいたい。機能的に理に適っていないスーパーカーにこそ、人間が無駄なものを欲しがる本質のヒントがある。(カーデザイナー 奥山清行)

エンリッチ編集部

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