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シドニー 2/2 
シドニーはアジア太平洋地域の観光ハブを目指す

このクラウンシドニーはバランガルーエリアに作られています。このバランガルーはオペラハウスやハーバーブリッジが見渡せるサーキュラーキーの隣の湾に位置していて、車やフェリーで10分程のとてもアクセスしやすい立地です。通常、カジノリゾートは町の中心部から遠く離れているか、マカオやラスベガスのように都市全体がカジノリゾートとして開発されているので、この立地は多くの観光客にとって魅力的でしょう。最も似たコンセプトのカジノリゾートとしては、シンガポールのマリーナベイサンズが挙げられます。

シドニー② 2

このクラウンシドニーも、マリーナベイサンズと同じく立地の良さを活かして、カジノだけでなくホテルや商業施設などを充実させた複合施設となる予定です。クラウンシドニーは、高さ270メートル以上とシドニーでも最も高い75階建てのビルとなる予定です。街の中心部からすぐ近くのカジノとなるため、広く一般の観光客や住民が入れるようになるとネガティブな影響が大きくなりすぎるという懸念から、多額の資金を有するハイローラー限定のカジノとすることも検討されています。

クラウングループはマカオでもカジノを運営しているので、世界で最も多額の資金を使う中国人のハイローラーに広くリーチできていますし、前回のコラムで紹介したSIV (Significant Investor Visa)や、PIV (Premium Investor Visa)といった投資家永住権制度を通じて、こちらも中国人を中心として富裕層がシドニーに流入してきているので、VIP限定のカジノとしても十分に採算が成り立つと見ているのでしょう。

マリーナベイサンズは、VIP以外も入場できますが自国民がカジノ中毒とならないように、シンガポールの市民権を持つ人は100シンガポールドル(約8,200円)の入場料が掛かりますし、そもそもカジノ自体の経営もPaizaというVIP会員からの売上により支えられています。VIPにフォーカスするという戦略が都市の中心部に位置するカジノにおいて主流の戦略となるかもしれません。

バランガルーエリアは、クラウンシドニーだけでなく総額60億豪ドル(約5,100億円)を費やされる政府肝いりの一大開発プロジェクトです。写真にあるように既に住居やオフィスが入居する高層ビルが続々と建設されていて、市中心部からMRT(地下鉄)でもアプローチできるようになる予定です。バランガルーエリア全体の再開発は2023年までに完成する予定なので、このタイミングでは必ずシドニーを訪れてその変貌ぶりを把握したいと考えています。ちなみに、クラウンシドニーは写真にある3つのタワーの左手のさらに海に近いサイドに建設されます。

ただ、気がかりなのはこのクラウンシドニーの完成予定が遅れていることです。当初は2019年中の完成を目指していましたが、現在は18ヵ月遅れて2021年の完成を目指しています。中国の反腐敗運動の強化によってマカオのカジノ売上は軒並み下落していて、クラウングループも昨年の利益が前年より40%近くも小さくなってしまいました。

このクラウンシドニーは、政府肝いりのバランガルーエリアの再開発の最大の目玉ですし、クラウングループにとってもオーナーの母国の史上最大のプロジェクトですから、それぞれの面子にかけても完成にはこぎつけるでしょうが、これ以上プロジェクトが遅れることがないか心配しています。

次回以降は、オセアニアから舞台を東南アジアに戻して、クアラルンプールやバンコクの最新事情を紹介していきます。

岡村聡_300

岡村 聡 (おかむら さとし)

シンガポールで資産運用のアドバイスを行う株式会社S&S investments代表取締役。 マッキンゼー&カンパニー、アドバンテッジ・パートナーズなどを経て、2010年11月に妻と2人で同社を設立。現在、資産運用に加えて、海外移住や海外不動産投資などのコンサルティングも行っている。著書に「世界の超富裕層だけがやっているお金の習慣」(KADOKAWA/中経出版)など。

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