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澤田秀雄 エイチ・アイ・エス創業者

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澤田氏が学生時代を過ごしたドイツ、マインツの街/iStock:marcociannarel

旅行代理店大手エイチ・アイ・エスは11月1日、創業者である澤田秀雄会長が12年ぶりに社長に復帰する人事を発表した(*本記事は2016年12月に掲載されたものです)。同社の経営は比較的順調だが、2016年10月の決算では売上高がわずかに前年を下回るなど成長の鈍化が見られる。カリスマ創業社長が現場に戻ることで、経営のテコ入れを図る。

澤田氏は、エイチ・アイ・エスの成功後も、国内LCC(格安航空会社)の先がけともいえるスカイマークを創業したり、経営不振に陥っていた長崎のハウステンボスの経営再建を引き受け、あっという間に黒字転換するなど、まさにマジックのような経営を行ってきた。だが、澤田氏はマジックを起こしているわけではない。若い時から積み上げてきた経営に対するブレない姿勢が、こうした正しい意思決定につながっている。澤田氏の富の源泉はおそらくそこにあるだろう。

学生時代にすでに相当な実業家兼投資家に

澤田氏は少年の頃から、すでにかなりの旅行好きだった。川の向こうには何があるだろうとすぐに遠くにいってしまい、家にはなかなか帰らない子供だったという。大学は国内ではなくドイツの大学に留学しているのだが、それほど明確な目的があったわけではなく、ドイツを拠点にあちこち旅行できるのではないかという算段があったという。

澤田氏はすでにドイツ留学中からのかなりのビジネス・センスを発揮しているのだが、ビジネスを始めたきっかけは、やはり旅費の捻出であった。

当時のドイツには、日本人の旅行者に対して現地を案内するサービスはほとんどなかったという。ドイツにやってくるビジネスマンや団体旅行客にレストランやライブハウスなどを案内するツアーを企画したところこれが大当たりし、かなりのお金を稼ぐことができた。

学生のアルバイト的な事業とはいえ、内容はかなり本格的なものだ。ホテルのコンシェルジュにも話を付けるようになり、自動的に顧客が紹介されてくるシステムまで作り上げている。最終的には地元の資本家が、資金を出すので現地で会社をやらないかと誘いまで受けたという。

ここで澤田氏が誘いを受けていれば、もしかすると澤田氏は欧州の実業家になっていたかもしれないが、その誘いは断り、ビジネスで稼いだ資金を持って日本に帰国している。しかも、そのお金は、現地で株式投資を徹底的に研究し、投資によって2倍以上に増やしていたというからさらに驚きである。

多くの起業家が立ち上げの資金で苦労するが、澤田氏は帰国して起業する時には、すでにまとまった資金を手にしていたのである。

加谷珪一

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