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「アナと雪の女王」は誰が見る?

ディズニーの長編アニメーション映画「アナと雪の女王」が大ヒットとなっている。公開からわずか1カ月半で、観客動員数1000万人を突破したが、これは2008年の映画「崖の上のポニョ」以来の数字である。
特に映画館をめぐる環境はここ20年で劇的に変化したといわれる。その背景にあるのは、いわゆる典型的な中間層の消滅である。

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「アナ雪」の公開前、業界関係者の多くは、「アナ雪」を見に来るのは、いわゆるディズニーファンが中心で、一般の鑑賞者にはそれほど波及しないのではないかとみていた。しかしフタを開けてみれば空前の大ヒットであり、ディズニーにとっては嬉しい誤算だったわけだが、こうした「アナ雪」のような洋画が大ヒットになるというのは、最近ではむしろ珍しいことなのである。
業界関係者がそのように見ていた理由にはいろいろあるが、もっとも大きいのは、映画館の立地条件や顧客層との関係である。

ここ2~3年盛り返しているとはいえ、映画の興業収入は一貫して減少が続いている。しかも、その内訳も大きく変化した。かつては映画といえば圧倒的に洋画が多かったのだが、興行収入の減少と反比例するように邦画の割合が急激に高まっているのだ。

過去3年の興行収入全体における邦画の割合は約6割となっており、7割が洋画で占められていた90年代とは正反対の状況である。邦画の中で多くを占めるのは、テレビドラマの劇場版とアニメである。年々、テレビの視聴者と映画館の入場者の共通化が進んでいることが分かる。

テレビ視聴者と映画入場者が共通化する理由は映画館の立地条件にありそうだ。現在、日本には約3300のスクリーン数があるが、このうち約2800は複合型映画館(いわゆるシネコン)が保有している。都市部が中心だった90年代の映画館とは状況がまるで異なっているのだ。シネコンのほとんどは、大都市近郊や地方にあるショッピングモールに併設されているので、当然、主要な顧客層はこうしたモールの顧客層と一致することになる。県によっては都市部には映画館がなく、シネコンしか映画館が存在しないというところもある。

ショッピング・モールに通う顧客層は、日常的にテレビを視聴したり、日本のアニメを好む傾向が高いことが想像される。最近流行りのマーケティング用語でいえば「マイルドヤンキー層」ということになるだろう。映画業界もこうした顧客層に併せてコンテンツを選別した結果、邦画の割合が増加してきたのである。

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●参考元:日本映画製作者連盟
 興行収入:http://www.eiren.org/toukei/data.html
 スクリーン数:http://www.eiren.org/toukei/screen.html

一方、典型的なアナ雪の鑑賞者層はこうした人たちとは一致しない。子供の数は少なく、子供が幼児の時にはおそらく外国製のベビーカーを愛用していたはずだ。家にはウォーターサーバーが置いてある可能性が高い。ネットの利用率も高く、子供が大きくなれば、海外ドラマを豊富に取り揃えたネットの動画配信サービスにシフトしてしまう人たちである。

映画館をめぐる状況から見えてくるのは、いわゆる典型的な中間層の消滅である。かつては、日本人の多くが同じテレビを見て、同じものを食べ、同じ服を着ていた。だが日本においてもライフスタイルの多様化が徐々に進み、住む場所によって消費行動が異なるという時代がやってきている。アナ雪の国民的大ヒットはむしろ、レアなケースと考えた方がよい。

特に日本の場合、こうしたマイルドヤンキー層の消費が、基本的に高齢者の預金や年金に支えられているという点が非常に気になるところである。高齢者が徐々に亡くなり、共同体内での高齢者から若年層への資金の移動がなくなってしまうと、地方の若者の消費は一気に減衰してしまう可能性がある。

東京にすべてが一極集中している点もやっかいである。人口が減少する中で、特定大都市圏に経済が集中していると、地方からの人口流出がさらに加速するのである。
総務省の試算では、現在1.4程度になっている出生率を2以上に上げたとしても、4分の1の自治体が若年層の流出によって維持が不可能になるとしている。出生率を2に上げることさえ非常に困難という現実を考えれば、近い将来、半分近くの自治体がなくなってしまう可能性も考えておいた方がよい。

今後、日本において投資やビジネスを続けていくためには、常にこの大きな動きを頭に入れておく必要がある。また自身がどのような場所に住むべきなのか、不動産の価値は維持されるのかという点においても非常に重要な視点となるだろう。
 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、
その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。
億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)
加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

加谷珪一

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