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セブン鈴木氏が辞任。日本の流通ビジネスは大きな転換点を迎える

大型店舗を目指した企業の多くは消えていった

コンビニは店舗の規模が小さく収益性が低い。こうした業態で十分な利益を上げるには、安値販売の理想は捨てる必要がある。また、フランチャイズ制度を導入することで、店舗運営のリスクをフランチャイジーに負担してもらう仕組みも必要となってくる。こうして、現在の標準的なコンビニの運営形態が形作られてきた。

定価販売は消費者にとっては逆に高い買い物だが、事業者にとっては大きなメリットをもたらす。各社の中でセブンが突出した業績を維持することができたのは、大型スーパーに見切りを付け、コンビニに舵を切ることに成功したからである。

コンビニのおかげでセブンが好業績を続ける一方、大型スーパーにこだわり続けてきたダイエーやマイカルなどは思うように業績を伸ばせず、最終的にはすべてイオンに吸収される形になってしまった。結果の違いは明白だったといってよいだろう。

今回、鈴木氏が退任する遠因となったのは、グループの祖業であり、大型スーパーの典型であるイトーヨーカ堂の不振である。セブンの成功が大型スーパーからの脱却であるならば、ヨーカ堂はむしろセブンにとって古い遺産ということになる。大型スーパー脱却の立役者が、その大型スーパーの不振が辞任のきっかけになるというのは皮肉というほかない。

最近では、大型スーパーだけにとどまらずコンビニも含め、大型チェーンストアという業態は構造的に存続できないという見方が強まっている。背景にあるのは消費の多様化と人口の減少である。セブンでは、今後の戦略として「本部主導のチェーンストア理論からの脱却」を掲げており、ヨーカ堂についても、店舗ごとの独立運営を強化していく方針だ。

チェーンストアはもはや成立しないのか

一方、こうした流れは間違っていると主張する事業者もいる。家具大手ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は、日本ではまだチェーンストアが伸びる余地は大きいと断言する。似鳥氏によれば、日本は米国と比較して20年は遅れており、低価格で良質な商品を国民が手にできる環境は実現できていないという。

確かに現状の消費不振は、単純に経済が成長していないというマクロ経済的な要因と、消費の多様化、人口動態の変化、ネット通販の普及という構造的な要因が絡み合って生じている。低価格な商品をマス向けに広く販売するという業態が本当に成立しないと決め付けるのは早計かもしれない。

だが一方で、米国においてもアマゾンの台頭によってウォルマート限界説も囁かれ始めている。アマゾンはビックデータをフル活用し、リアルタイムで価格を変更して収益を最大化している。こうしたネット系企業の手法は、今度ますます精緻化していくだろう。

コンビニの生みの親である鈴木氏の辞任は日本の流通業界の大きな転換点となる可能性がある。大型チェーンストアはまだ伸びていくのか、ネット通販のような新しい業態に取って代わられるのか、答がでるのはそれほど先のことではないはずだ。
 

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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