ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

ヴィンテージ・アクセサリーを取り入れる 今静かなブームを呼ぶシグネットリング

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長引くコロナ禍で、ファッションの消費が滞るなか、ヴィンテージ・アクセサリーが人気だという。特にシグネットリングが売れている。現代ではもう作ることが出来ない素晴らしい技工や、トレンドに流されない不変の価値が、再び評価されているのだ。長くモノを愛するというサステナビリティの精神にも合致する。そこで今回は、メンズ向けヴィンテージ・アクセサリーの専門店を訪ね、その魅力を伺ってみた。

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今回の Concierge
川上正美さん(OLD & NEW代表)

1970年代、ラルフ ローレンが日本に上陸する際に、企画メンバーとして参加。十数年にわたって同ブランドを支えた。その後、2003年にメンズ向けのヴィンテージ装身具の専門店、銀座OLD & NEWをオープン。独特の審美眼でバイイングされたアクセサリー類は、多くのファンを持つ。ファッション業界にも愛用者は多い(私・松尾もそのひとり)。ヴィンテージに対する造詣は、ピカ一である。


Q

「そもそもヴィンテージ・アクセサリーって何ですか?」


A

「第二次大戦前後までに作られた装身具です」

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ヴィンテージ・アクセサリーについて、熱く語る川上氏。その造詣は、日本一だ。

——ヴィンテージとアンティークは、どう違うのでしょう?

「一概には言えませんが、一般的にアンティークというのは100年以上経っているもの、ヴィンテージは3〜40年前から100年くらい前のもの、という分け方が一般的です。私の店は両方が混在しています」

——どうして、この店をオープンしようと思ったのですか?

「私がこの世界に興味を持ったのは、まずラルフ・ローレンの影響が大きいのです。ラルフ ローレンでは日本での立ち上げから、十数年間働きました。彼は古いものが大好きで時計、クルマ、古書など素晴らしいヴィンテージのコレクションを持っています。また実の父親からもらった時計のせいでもあります。アメリカのエルジン・デラックスという1本で、今日もしています。もらったのは13歳のときなのですが、ずっとしておらず、大人になってから、改めてその素晴らしさに気づいたのです。私がこの店をスタートしたのは会社を定年退職してからで、最初からメンズのアクセサリーに特化しようと決めていました」

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超絶的細工が施された懐中時計は、1897年、アメリカ・エルジン社製。一般的なメンズサイズである6サイズ。¥108,000

——ヴィンテージ・アクセサリーの魅力とは何でしょう?

「細工の細やかさです。例えば、チェーンひとつとっても今のものとは全然違います。今チェーンといったら、キヘイかスクリューくらいしか見つかりませんが、1920〜30年代のチェーンには、見えないところにまでコインエッジが刻んであったりと、手のかけ方が違うのです。技術的にもコスト的にも、現代ではもう作れないものばかりです。満足な娯楽もなかった昔の職人は、小さい頃から親方に弟子入りして、一心不乱に良いものを作っていたのでしょう」

——この懐中時計も、すごい細工ですね。

「時計に関して言えば、ヴィンテージの懐中時計の黄金期は第一次大戦前ですね。戦争で鉄砲を撃つ時、懐中時計だといちいち視線を外さなければならない。しかし時計を腕にしていれば、そのまま時刻を知ることができる。そういった理由で2つの大戦を挟んで、腕時計が一般的になりました。だから戦前の懐中時計はすごいのです。これは1897年のエルジン製ですが、これで10万円ちょっとです。今の金時計は何の装飾もなくて、つるんとしたものばかりです。買うなら昔のものにすべきですよ(笑)」


Q

「今のスタイルに似合うのでしょうか?」


A

「ちょっとしたアイデアで、実用的に使えます」

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ポロシャツの襟にカラーバーをつけてアクセントに。
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ポケットウォッチ・チェーンをベルトにつけて、キーホルダーとして使う例。

——川上さんは、昔のものを、今の格好に取り入れるご提案をされていますよね?

「いろいろと考えて、昔のものを今のスタイルに取り入れようと工夫をしています。例えばフォブチェーン(懐中時計用のチェーン)は、懐中時計の代わりに鍵を取り付けて、ベルトなどにくくりつけると実用的です。またラペルのフラワーホールから垂らすのもいいですね。カラーバーを、ポロシャツの襟につけるのも面白いと思いますよ。古いものをどう使うのか、そこを考えるところに妙味が生まれるのです」

——サステナビリティ的にも、いいですね。

「若い人たちには、モノを大切にして欲しいと思います。また、ここにあるモノたちは大切に使えば、とても長く使えます。たとえば、カラーバーを5千円で買っても、10年間使えば1年あたり500円です。そしてもし新人や部下に『それ、いいですね』と言われたら、さっと外して『お前にやるよ』とやればカッコいい。そんな大人になって欲しいと思っています」

松尾健太郎

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