ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

オーダーメイドの“どうする?”


Q

「作った後に、太ってしまったら、お直しはできますか?」


A

「10kgくらいまでなら、なんとかなると思います」

オーダー品のパンツの裏側。バックとサイドの縫い目に、大きな縫い代が取ってあるのがわかる。将来太ってしまったときにも、お直しが可能なのだ。
オーダー品のパンツの裏側。バックとサイドの縫い目に、大きな縫い代が取ってあるのがわかる。将来太ってしまったときにも、お直しが可能なのだ。

——せっかくお金をかけて作っても、太って着られなくなることが心配です。

「10kgくらまでなら、何とかなると思いますよ。オーダー品というのは、長い間愛用して頂くことを前提に作られていますから、既製品に比べると、縫い代の量を多くとってあります。しかし、お直しに出すときは、きちんと直せるところへ出さないとダメです。例えばパンツひとつとってみても、一カ所で広げるのではなく、いろいろなところをいじって筒状に広げていくのです。そうではないと、シルエットが崩れてしまいますからね」

——パンツだけでもオーダーできますか?

「もちろんできます。もともと替えパンツを作っておくことも、オリジナルの生地なら可能です。お値段は10万円くらいから。オーダーの場合、3分の1がパンツの価格、3分の2がジャケットの価格、と考えて頂ければよろしいかと思います」


Q

「もし出来上がったものが気に入らなかったら、どうしたらいいのでしょう?」


A

「もちろんお直しをします。そして一着ごとに理想に近づけていきます」

デジタイザーで取り込まれた顧客の型紙情報は、プロッターと呼ばれる機械で出力される。これにより、一着ごとに型紙のアップデートを可能としている。
デジタイザーで取り込まれた顧客の型紙情報は、プロッターと呼ばれる機械で出力される。これにより、一着ごとに型紙のアップデートを可能としている。

——残念ながら、出来上がったものがイメージと違っていたら、どうしたらいいのでしょう?

「もちろん、お直しをします。しかし、製品として完璧なものを求めるならば、既製品のほうがいいかもしれません。手で縫ったものは、機械のようにキレイではありません。例えば、バーへ行って水割りを頼みますよね。バーテンダーが作る水割りは、それは人間が作るものですから、1杯ごとに味が違う。もし、完璧に同じ味を求めるなら、自動販売機で缶入りの水割りを買った方がいい。フルオーダーも、それに似ています。人の手の温もりを楽しむのがオーダーなのです。さらに言うと、オーダーとは長い時間軸のなかで考えるべきものだと思います。弊店では、すべてのお客様の型紙を、デジタイザーという機械で保存しており、一着作るごとに細かい修正を加えています。だから、作れば作るほどデータがたまり、フィット感と着心地がよくなっていくのです」

——なるほど、フルオーダーの世界は、深いですね。

「はい。まさに人生こそ、オーダーメイドです(笑)。オーダーメイドとは、『自分が何が好きなのか』を探る旅でもあるのです。今の時代、はっきりと『自分はコレが好きだ』とわかっている人は少ないですよね。そこでわれわれテーラーがガイドになって、お客様が本当に好きなものは何なのかを、一緒に探っていくのです。そしてそれがはっきりしてくると、そこに“個性”というものが生まれて来るのだと思います」


壹番館洋服店

エンリッチ 松尾健太郎 壹番館洋服店
1930年創業、数多くの政治家、経済人、文化人らに愛された、銀座でも有数の一流処である。親子3代に亘って、通い詰めるファンも多い。サヴィル・ロウ仕立てを源流とするが、常に進取の機運を持ち、時代に合わせたアップデートを行なっている。充実したオリジナル・ファブリックのコレクションは、業界随一といえる。

東京都中央区銀座5-3-12
TEL:03-3571-0021
営業時間 10:00〜19:00(日・祝 11:00〜18:00)〈火曜日定休〉
URL:www.ichibankan.com


※掲載した価格は全て税別。

撮影=岡田ナツ子

松尾 健太郎 (まつお けんたろう)

THE RAKE 日本版編集長、クリエイティブ・ディレクター
株式会社世界文化社にて、月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05 年同誌編集長に就任し、のべ 4 年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン編集長、新潮社 ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌“THE RAKE”日本版編集長。

連載コラム

松尾健太郎

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