ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

中古価格残存率 70% VS 22%
~フェラーリV8とV12~

中古市場におけるV8とV12の違い

先日、某ショップを覗いてみた時のことだ。そこには美しく淡いメタリックカラーに包まれたフェラーリ612スカリエッティが鎮座していた。

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フェラーリ612スカリエッティ

このモデルはリアシートを持った2+2で、456Mの後継として2004年に発表されたもの。V12気筒を搭載し、映画監督のロベルト・ロッセリーニがイングリッド・バーグマンに贈ったスカリエッティ製375MMをモチーフにしたエレガントなスタイリングを特徴とする。ピニンファリーナ在籍時の奥山清行氏が456Mに続いてそのスタイリングを担当したモデルだ。

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612は後部座席を持つ

私が驚いたのは、この走行距離も2万kmほどで完璧なコンディションの個体に付けられたプライスタグだ。その新車価格2890万円に対して、なんと650万円であったのだ。前述したV8をミッドマウントした現行より2世代前のF430がほぼ同時期に販売されたモデルだが、こちらは新車価格2079万円に対して平均的な市場価格は1500万円ほどになる。この612スカリエッティは確かに相場より少し安かったようだが、それでもどんなに高くても1000万円はしない。約12~3年落ちの中古フェラーリが新車価格比で、F430の約70%に対してこの612スカリエッティは22%に過ぎない。V8ミッドマウントモデルと比べると、V12 FRモデルは新車価格も高く、大人向きの落ち着いたキャラクターから、中古市場では動きが緩やかであることは理解していたが、“ちょっと古い”それがこんな価格であるとは。需要と供給の関係で、この価格差が生まれた訳だが、同じフェラーリでも大きな違いだ。

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ミッドマウントV8エンジンのF430

もちろん、この両車は同じフェラーリでもカテゴリーが異なる。片やサーキットを攻めるようなキャラクターを持つミッドマウントV8エンジンF430に対して、612スカリエッティはV12をフロントに搭載したFRの豪華なグラントゥーリスモだ。しかしちょっと視線を変えてみるなら、612スカリエッティはフェラーリの歴史的アイデンティティともいえるV12エンジンを搭載し、本格的なアルミ製スペースフレームの採用など、スーパースポーツとして何の手抜きも無い。フェラーリとして生まれたからには、あのフィオラノ・テストトラックにて、サーキットラン向けのチューニングもしっかりと為され、最高速度も300km/hを軽く超える。(ほとんどのオーナーがそうであるように)街中を走るのであれば、たっぷりとしたラゲッジスペースとなる後部座席を持った612スカリエッティの使い勝手はV8ミッド・モデルを大いに凌ぐ。

私の個人的意見だが、このクルマはフェラーリの持つクラシックな世界観をとても良く表現していると思う。冒頭で述べたように、モダンでありながら、時を超えたクラシックの魅力を楽しめる一台と言えるであろう。

また、この2モデルと同時期のV12搭載フラッグシップ599GTBも同様な意味でお勧めしたい一台だ。これらV12モデルを品良く乗りこなすことは容易ではないが、そのチャレンジが貴方の世界観を広げる。そして価格もこなれているから、走行距離を気にせずどんどんと乗るのもいい。投機的な意味でおそるおそるV8モデルに乗るのではなくフェラーリを日常の足として楽しみ、乗りつぶすのもいいではないか。

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V12搭載の599GTB

フェラーリのエンジニアが嘆いていた。「信頼性を高める努力を日々重ねているのに、日本のオーナーはなぜフェラーリにあまり乗ってくれないんだ?10万kmくらい何ともないのに・・・」と。日本市場における“ちょっと古い”V12フェラーリのプライスタグは世界的に見ても超格安だ。良い個体はどんどんと海外へ流出中なのだ。

Enrich読者の皆様も、マーケットを漂流中のすこし古いV12フェラーリに注目してみてはいかがであろうか。

*2018年に好評いただいた回のアンコール掲載です


越湖 信一(えっこ しんいち)
EKKO PROJECT代表

イタリアに幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンタメビジネスに関わりながら、ジャーナリスト、マセラティクラブオブジャパン代表として自動車業界に関わる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリストとして活動する他、クラシックカー鑑定のイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に「Maserati Complete Guide」など。


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フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング
 
KADOKAWA/角川マガジンズ 2,484円
 
現代の日本のものづくりには、長期的に見て自分達のブランド価値を下げたり、本来苦手なコモディティビジネスに自らを落とし込む悪い癖がある。クルマに興味の無い人にこそ、是非この本を読んでもらいたい。機能的に理に適っていないスーパーカーにこそ、人間が無駄なものを欲しがる本質のヒントがある。(カーデザイナー 奥山清行)

エンリッチ編集部

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