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フェラーリのクラシックカーはなぜ高い

ブレないブランド戦略がもたらす価値

それでは、そのブームともいえるクラシックカー・マーケットにおいて、なぜフェラーリの価値がそれほどまで高いのだろうか。その答えのひとつは”キング・オブ・スーパーカー“であるフェラーリのブレることなきブランド戦略である。創業者エンツォ・フェラーリの神話と、モータースポーツの頂点でもあるF1でのヒストリーをバックボーンに、高めていった希少なブランドという価値だ。売れるからといって極端に安価なモデルや4ドアもでる、昨今のブームであるSUVなどの手を染めたりはしない、確固たる姿勢がファンには響く。

二番目は他の自動車メーカーに先駆けて、クラシック・フェラーリの価値向上に取り組んだという点だ。クラシックカーが評判になり、マーケットにおける価値が上がれば、フェラーリのような希少なクルマでは、広く中古車市場の相場を持ち上げ、新車販売に大きな追い風になる。それを理解していたメーカーも少ないし、解っていても、具体的な施策を手掛けたメーカーはフェラーリを除いて存在しなかった。拙著『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング(KADOKAWA)』にて、この仕組みを解説した部分を少し抜粋してみよう。

フェラーリ社が「価値あるクラシックカーとしての認定制度 フェラーリ・クラシケ」(クラシケ=クラシックの伊語)を設けたのは2006年のことだ。その認定を受けたいオーナーはイタリアのマラネッロにあるフェラーリ本社のフェラーリ・クラシケ部門か、もしくは世界中にあるフェラーリディーラーへ行き、認定の為の審査を依頼する。すると、クルマごとに決められているポイントがチェックされ、そのクルマが生産された時と同じ状態のオリジナルを保ち、かつ、各部が正常に機能しているかが判断される。そしてそれらがフェラーリ・クラシケの基準に達していれば、フェラーリ社はそのクルマが〝ホンモノ〞であることを証明するのだ。

クラシックカー、特にレースカーは、そのホンモノという解釈が難しい場合が時としてある。レースでは事故がつきものなので、スペアエンジンやスペアフレームなどがメーカーから供給される。その予備パーツを使ってもう一台同じクルマを作ることもそう難しいことはない。

その“ホンモノ”であるよりどころは、そのクルマが歩んできた歴史と、フレーム部に刻印された固有のシャーシナンバーなのであるが、スペアのフレームに同じシャーシナンバーが悪意で刻まれたら・・・。

そういうグレーな状況が生まれた時、フェラーリ・クラシケは、その真贋の判断を行い、白黒をはっきりさせる役割を果たすのだ。ここでクラシックカーを持つリスクのひとつであるフェイク(偽物)や記録の混同によるトラブルを排除することができ、より安心してフェラーリのコレクションを行うことができるようになる。

また、クルマの素性的には問題なくても、改造されていたり、コンディションが悪かったりする場合には、フェラーリ・クラシケが、オリジナルの状態に復元することを引き受ける。これはビジネスとしても大変 利益率がよい。なぜなら、ほとんどフェラーリ・クラシケの〝言い値〞で作業は行われるからである。

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クラシックカーの評価はフェラーリの新車価格も上昇させる

このようなフェラーリの取り組みによって、元々高かったフェラーリのクラシックカーの価値は更に上がる。価値が上がれば、それに気を良くしてさらにオーナーはクルマの状態をよくする為に整備やレストア(復元)に力をいれるから、市場にあるクルマの状態もますます良くなり、それまであまり人気のなかったモデルのフェラーリの相場も引っ張られて上がって行く。結果的にこれらの動きは現在販売しているフェラーリの新車の価格を上昇させる大義名分まで作りあげてくれる。さすがフェラーリである。

三つ目は言わなくともお判りと思うが、少量生産をポリシーとするフェラーリそのものの、希少性だ。昨今では8000台に及ぶ年間製造台数を記録していたが、1960年代では数百台であり、クラシックカー・マーケットで話題になる特殊なモデルは数台、いや1台しか作られなかったものもざらにある。タマが少なければ相場も上がりやすいし、めったなことで下がることはない。

そういった理由から、フェラーリが嫌いでないなら、クラシック・フェラーリを手に入れるということは、いろいろな意味で合理的だ。そんな判断から39億円というプライス・タグが誕生する訳である。

*2017年12月7日掲載


越湖 信一(えっこ しんいち)
EKKO PROJECT代表

イタリアに幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンタメビジネスに関わりながら、ジャーナリスト、マセラティクラブオブジャパン代表として自動車業界に関わる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリストとして活動する他、クラシックカー鑑定のイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に「Maserati Complete Guide」など。


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▼越湖信一著
 
フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング
 
KADOKAWA/角川マガジンズ 2,484円
 
現代の日本のものづくりには、長期的に見て自分達のブランド価値を下げたり、本来苦手なコモディティビジネスに自らを落とし込む悪い癖がある。クルマに興味の無い人にこそ、是非この本を読んでもらいたい。機能的に理に適っていないスーパーカーにこそ、人間が無駄なものを欲しがる本質のヒントがある。(カーデザイナー 奥山清行)

エンリッチ編集部

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