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The Style Concierge

イングヴァル・カンプラード イケア創業者

富の形成とは愚直なものである

彼のビジネスは順調に拡大し、訪問販売だけでは数をさばくことができなくなった。このため、地元の新聞に広告を出し、事実上の通販ビジネスに進出することになった。このときお試しで広告に家具を掲載したところ飛ぶように売れたという。これが後のイケアの原点になる。

通販といっても当時は今のようにロジスティクスが確立しているわけではない。地元の牛乳配達の車を利用し、商品を最寄り駅まで運んでもらうなど、すでに流通網をどう構築するのかという部分で試行錯誤を行っている。こうした体験はイケアが巨大化する際に大いに役立っている。

ちなみに、イケアが家具を広告に載せたのは、ライバルとなっていた企業が家具の取り扱いを行っていたからという、単純なものであった。ライバルがやっているならウチもという、純粋な競争精神はやはり重要である。同じような精神は、現在のイケアのビジネスモデルの根幹を成すショールームを始める時にも発揮されている。

イケアが大規模なショールームを展開するきっかけになったのはライバル企業との値引き合戦だったといわれる。値引きが激しくなり、顧客に品質に対する疑問が出てくることを懸念したカンプラードは、思い切ってショールームを展開。実際に顧客に見てもらって品質について納得してもらうという作戦に出た。これが現在のイケアのショールームの原点だが、もともとのきっかけは単純な値引き合戦だった。

カンプラードは自分ほど多くの失敗を重ねた起業家はいないと述べている。仕入れ価格を完全に確約しないまま、広告を出してしまい赤字で商品を売ったことや、注文を出しても仕入れ業者から一個も届かないということもあった。結局のところ、失敗を繰り返し、そこから教訓を得て、知見を積み上げていくしか方法はない。

こうした体験に、体系立てられた知識が加わることで、その体験は理論としてより強固なものになってくる。カンプラードが実業家として体験してきたことは、ある意味では面白味に欠けるものかもしれない。しかし、そうであるが故に、彼の体験はわたしたちにとって有益である。

ビジネスに王道はなく、好きなことを愚直に続けていくことに優るものはない、ということをカンプラードは教えてくれている。

*この記事は2016年11月に掲載されたものです

 

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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