ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

ベビ連れOKの高級フレンチ急増が意味すること

エンリッチ 加谷氏

このところ、ベビ連れOKの高級レストランが急増中だ。シンプルに考えれば、若年層の年収が伸びないことから、可処分所得の多いファミリー層の拡大をレストラン側が狙っているという解釈になる。だがもう少し俯瞰的に眺めてみると、そこには広い意味でのグローバル化の影響と、日本の人口動態が影響している。

背景には可処分所得の奪い合いが

高級フレンチを全国に展開する「ひらまつ」は、すでに全店でお子様コースを設けており、常時子連れの客を受け入れている。超高級店として有名な「オテル・ドゥ・ミクニ」でも、小学生以上であれば、昼夜問わずいつでも利用が可能だ。このほかにも、積極的にお子様メニューを揃える高級店は増えてきており、子連れで高級店を訪れることはもはや珍しい光景ではなくなった。

高級レストランは、昔も今も、比較的年齢層の高い女性によって支えられてきたが、それでも以前は、企業接待用途や若者のデートなど客層は多様であった。だが長期の不況によって、企業の接待用途は激減し、所得の偏りが激しくなってきたことから、若者の利用もなくなった。

相対的にお金を持っているシニア層が顧客の中心となるのは、当然の結果といえるだろう。だが、シニア層だけでは、当然のことながら、供給のすべてをカバーすることは難しい。シニア層の次に可処分所得があり、支出に対して積極的なのは、多少の余裕がある子育て世代ということになる。

シニア層は孫への出費は惜しまないので、もしかすると、食事に行くときのスポンサーは、夫婦ではなく、その親なのかもしれない。いずれにせよ、レストラン側にとってみれば、この客層を獲得しない手はないということになる。

社会のフラット化で階級的なサービスは消滅へ

高級店への子連れについては、一部の利用者はあまりいい顔をしていない。ここではその是非について論じるつもりはないが、この傾向は、単なる不景気がもたらした一時的なものではなく、恒久的なトレンドだということは、よく理解しておいた方がよいだろう。

かつては、社会階層と収入はほぼリンクしており、各階層ごとにライフスタイルはある意味で画一化されていた。一定以上の階層なら、月に1回は高級フレンチでしっかりと食事をするのが、ライフスタイルに組み込まれていたのである。だがこうした状況を大きく変えたのが、IT化やグローバル化といった社会構造の変化である。

これらのイノベーションによって社会は基本的にフラット化する方向に進む。所得格差は生じるものの、所得格差が階級的な差としては顕在化しにくくなっているのだ。このため、階級格差的な雰囲気をウリにしていたサービスはその役割を終えつつある。

この動きは当然のことながら、典型的な中産階級の消滅とセットになっている。米国ではこの動きはすでにかなり顕著になっている。

加谷珪一

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