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日本人は稼げなくなっているのか?

エンリッチ コラム 加谷

このところの円安で製造業の業績が回復している。日経平均も2万円に到達し、日本企業は自信を取り戻しつつあるかにみえる。だが足元では、あまりよくない事態が進行中だ。日本企業の世界における輸出シェアの低下が止まらず、「稼ぐ力」が減少しているのだ。

円安なのになぜ日本の輸出は増えないのか?

多くの人が、日本は製造業の国であり、日本製品は高い競争力を持っていると考えている。このところ日本企業に元気がなかったのは、円高などの影響であり、本質的には日本の製造業は強いというのが多くの国民の共通認識といってよいだろう。

だが、政府が7月に公表した2015年版の通商白書では、こうした状況が大きく変わりつつある実態が示されている。円安で日本企業の業績は回復しているものの、市場の伸びが大きい分野でのシェアが低下し、諸外国に比べて収益力が低い水準にとどまっているのだ。

ここ数年、円安が一気に進んだことで、日本では輸出が大幅に増えることが期待された。しかし、円がこれだけ安くなったにもかかわらず、日本からの輸出数量はあまり増えていない。

当初、輸出数量が増えない理由は、いわゆるJカーブ効果が原因であると説明されていた。Jカーブ効果とは、為替レートが変動した際、その効果が表れるまでには時間がかかるため、タイムラグが生じる現象のこを指す。グラフがJの形を描くようにして効果が表れることからその名が付いた。

Jカーブ効果の理論によれば、円安によって価格競争力が付き、輸出の数量が増えるまでには時間がかかるものの、最終的には輸出が回復し、貿易赤字も一段落することになる。

だが、予想に反して日本の輸出数量は一向に増えていない。甘利経済再生担当相は昨年、「円安で輸出環境が良くなっているにもかかわらず思ったほどスピーディーに輸出が拡大していない」とし、円安が必ずしも輸出増大につながっていないことを初めて認めた。

輸出が増えない最大の理由は、製造業の現地生産化が進んだからである。東南アジアに工場を移転すると、製品は日本からではなく、現地から世界各国に出荷される。このため、統計上、日本からの輸出は減少してしまうのだ。

しかし、現地生産化が行われるのは、付加価値の低い製品だけであり、高付加価値の製品は相変わらず国内で製造されている。円安になれば輸出数量も増えてくると考えるのが自然であり、これだけ円安が進んでも、日本の輸出数量が増えないというのは、ちょっとした謎といってよい。

加谷珪一

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