ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

資産運用に動き出すなら今?円安ドル高の進展が意味すること

しばらくの間、膠着状態が続いていた日米の市場が大きく動き始めた。1ドル=102円前後だった為替相場は、8月中旬からドルが急上昇、9月に入るとさらに続伸し、19日にはとうとう109円を突破した。ダウ平均株価は1万70000ドルを突破して史上最高値を更新し、日経平均も1万6000円台を回復している。

ドル高

市場が動いたきっかけは米国の金利

市場が大きく動いた最大の要因は、米国の金利動向である。米国は順調に景気の拡大が続いており、すでに量的緩和からの撤退モードに入っている。FRB(連邦準備制度理事会)は2014年9月17日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、量的緩和策を次回の会合で終了することをあらためて確認している。市場の関心は、景気の過熱を防ぐために、いつ金利を引き上げるのかという点にシフトしている。

金利が引き上げられれば、ドルが買われやすくなるので、ドル高要因のひとつとなる。金利の上昇は株価にはマイナスとなる可能性もあったが、景気回復を前提にした金利上昇であることや、金利引き上げまでにはまだ時間があることなどから、米国の株式市場では強気な見方が広がっている。

一方、欧州の状況はこれとは正反対である。インフレ率が低下し、場合によってはデフレに逆戻りするリスクが指摘されている。欧州中央銀行(ECB)はすでにマイナス金利政策を導入しており、量的緩和に踏み切る可能性が高いと考えてよいだろう。

欧州で量的緩和が実施されれば、ユーロが値下がりするので、ドル高はさらに進むことになる。こうしたところに、ウクライナ問題の複雑化という要素も加わり、さらにドルが買われやすくなっていというわけだ。

つまり現在の金融市場ではドル買いを誘発する材料ばかりが存在している。こうした状況から、円安ドル高の動きはここしばらく継続しそうだというのが市場の一般的な見方となっている。

短期的には行き過ぎたドル高から、円高に戻る可能性もあるが、大きなトレンドとしては、やはりドル高円安と考えた方が自然だろう。

今回の円安は歴史的転換点のスタート地点?

日本については、これまで円安=株高という図式があったことから、とりあえず円安に対してはプラスに反応し、日経平均は上昇している。ダウが1万7000ドルを超えたことも心理的には大きく影響しているだろう。

日本の場合には、足元の景気失速が予想以上に大きく、経済が順調に拡大できるのかは不透明な状況となりつつある。だが、円安が今後も継続するようであれば、日本の株式市場も比較堅調に推移すると考えられる。その理由は、日本の物価と日銀のスタンスである。

日銀の黒田総裁は、このところ円安を容認するような発言を繰り返している。このままでは、2%という日銀の物価目標を達成するのは難しく、これを実現するためであれば、さらなる円安もやむなしというのが日銀のスタンスと考えられる。

このまま円安で推移すれば、輸入物価が上昇し、やがてそれは国内の物価に波及してくる。残念ながら労働者の実質賃金は上がっておらず、この状態で物価が上がるとさらに消費が低迷する可能性もある。だが、円安の進展は少なくとも物価を上げることには寄与するだろう。

名目上の物価が上昇すれば、それに応じて株価も上昇してくることになる。日銀は望んでいないだろうが、このまま景気の低迷が続いた場合には、日銀に対して追加緩和の圧力も高まってくることになる。これはさらなる円安と株高を誘発するだろう。

個別要因としても株価が上がる理由がある。それは日本の公的年金の株式シフトである。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、株式の保有比率を引き上げる方向で改革を進めている。この動きは、株式シフトに積極的といわれる塩崎恭久氏が厚労相に就任したことでさらに加速しそうな勢いである。

時期はともかくとして、永田町では解散総選挙が近いとの噂で持ちきりだ。アベノミクスにとって株価は生命線であり、GPIFの株式シフトは、一種の選挙対策にもなっている。実際、8月以降、株価の下落局面ではGPIFが積極的に買っていることがほぼ確認されており、確実に株価の下支え要因となるだろう。

ドル円相場は、1973年の変動相場制開始以降、一貫して円高ドル安の傾向が続いてきた。だがここにきて、米国経済の完全復活によって、トレンドの歴史的転換点に差し掛かろうとしている。
日本経済は20年にもわたる長期のデフレに苦しんできたが、為替相場のトレンド転換にともなって、同じくインフレへの大転換が進む可能性が高くなってきている。

今回の円安が、長期的なそして不可逆的な円安とインフレのスタート地点なのかはまだ分からない。短期的には円高、株安への揺り戻しもあるだろう。だが相場転換点を迎えている可能性は、かなり高まってきていると考えるのが自然である。

 


加谷珪一(かやけいいち)
評論家
東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事、
その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。
マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う。
億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)
加谷珪一のブログ http://k-kaya.com

加谷珪一

Return Top