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若者は本当にクルマが嫌いになったのか?

こうした状況は、自動車メーカーの決算にもあらわれている。例えばトヨタ自動車の売上高を販売台数で割った単純平均価格は、ここ20年で1.7倍に上昇した。総務省の小売物価統計を見ても同一グレードの価格は上昇傾向が顕著となっている。やはりクルマの単価は上がっているとみてよいだろう。

ただ、高く感じるのはそれだけが原因ではない。日本は諸外国に比べて所得が伸びておらず、日本人の購買力が落ちていることも大きく影響している可能性がある。

自動車は典型的なグローバル商品であり、基本的に自動車の価格は世界経済に比例して動くことになる。日本では過去20年、経済がゼロ成長だったが、諸外国は同じ期間でGDP(国内総生産)が1.5倍から2倍に拡大し、それにともなって物価も順調に上昇している。グローバルな経済状況に合わせれば、クルマの値段は上がっていく。

加えて、日本人の所得が減っていることが、問題をやっかいにしている。日本の給与所得者の平均年収はここ20年、多少の上下はあるものの、一貫して下がり続けている。消費者の稼ぎそのものが減り、一方でクルマの単価が上がったということになれば、クルマが買いにくくなるのも無理はない。

購買力が低下した場合、付加価値の高いクルマではなく、コストパフォーマンスの高いクルマが求められるようになるが、こうしたニーズに対応する新車はあまりない。もしそうであれば、低価格なクルマへのニーズは中古車市場がカバーすることになるはずだが、日本では米国のような巨大な中古車マーケットはなかなか成立しにくい。日本ではクルマは毎日の足というよりも、嗜好品としての性格が強いからである。

日本人の購買力が低下している以上、付加価値の高いクルマを売るというやり方は、今後はますます成立しにくくなると考えられる。中古車市場が拡大しないのであれば、機能を最小限にし、価格を抑えた車種を用意するなど、購買力が低い事を前提にしたプロダクト戦略も必要となってくるかもしれない。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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