ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

成功者の中に広範囲なコロナ検査を望む声が多い理由

孫氏と三木谷氏はカンが鈍ったのではない

筆者はむやみな検査拡大を推奨する立場ではないが、明らかに論理的な正解は前者であり、検査の抑制はあくまでも現実問題を考慮した結果として判断すべきものだろう。だが世論はそうではなく、孫氏や三木谷氏に対しては「医療を崩壊させる気か」といった激しい批判が寄せられた。

(広範囲なセルフ検査は実施しないという)同じ結論を得る場合でも、両者の違いは極めて大きいと筆者は考えている。成功者というのは、まずはロジックにしたがって必要なプランを考え、現実を考慮して最終的な判断を行う。今回の件で言えば「本来、検査の拡大は必要だが、現実には弊害が多いのでやめた方がよい」という結論になる。

一方、ロジックを飛ばしてしまう人は、検査拡大と医療崩壊という本来は別の次元のテーマを混同してしまい、最初にダメだという結論を出してしまう。たまたま結論が同じだったので今回は問題なかったが、こうした思考パターンは時に致命的なミスを引き起こす。

多くの人の頭の中に「政府がやっていることは間違いない」といったバイアスがかかりやすいということも影響しているだろう。孫氏や三木谷氏にはこうしたバイアスがないので、ロジックに沿って考えを進めることができ、これが彼等の成功を支えてきた。

今回は両者とも結果的に撤回に追い込まれたが、ロジックに忠実な彼等の思考プロセスは多いに参考になると筆者は考えている。非常時においてもブレることなくこうした思考ができるのであれば、いかなる時でも原理原則に従った判断が下せるということであり、これは成功者にとって不可欠の要素である。

一部の人は、孫氏や三木谷氏のカンが鈍ったと批判しているが、そうではない。ロジックに従い、現実を考慮して撤回したという今回のプロセスは、二人がいまだに高い戦闘能力を持った起業家であることを物語っている。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

連載コラム

kaya_book_2019
加谷珪一 著
 
日本はもはや「後進国」
秀和システム
単行本 1,430円
 
日本の世界競争力ランキングの順位は63カ国中30位(IMD調べ)、平均賃金はOECD加盟35カ国中19位、相対的貧困率は39カ国中29位、教育に対する公的支出のGDP比率は43カ国中40位(いずれもOECD調べ)など、データを参照すると、先進国というイメージと異なる日本の現実がみえてくる。日本の豊かさのカギを握るものは何なのか? 著者がわかりやすく解説する一冊。

加谷珪一

Return Top