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The Style Concierge

リスクの正しい取り方

個別銘柄リスクと市場リスク

これは投資の世界でもまったく同様である。投資の世界にも、個別銘柄特有のリスクと市場リスクの2種類がある。投資をする時には、自動的にこの2つのリスクを取ってしまっていることを忘れてはならない。

個別銘柄特有のリスクは、その会社が倒産したり、経営状態が悪化するというリスクである。こうしたリスクを避けるためには、投資対象となる会社をよく調べ、どの程度の危険性があるのかをしっかり吟味する必要がある。投資のプロの世界ではデュー・ディリジェンスと呼んでいるのだが、この事前の調査をどれだけしっかりできるかで、投資の結果は大きく変わってくる。

資金に余裕があれば、複数の銘柄を組み合わせ、個別銘柄が持っているリスクを分散することが可能となる。専門的にはポートフォリオ理論と呼んでいるが、一定のルールで銘柄を分散すれば、こうしたリスクを軽減することが可能だ。

だが市場リスクについては、どんなに事前調査をしても、ポートフォリオにしたがって分散投資をしたとしても、回避することはできない。これは、リーマンショックに代表されるような、市場全体が下落してしまうリスクであり、投資家単独ではどうしようもないものである。

だが現実には、この市場リスクとうまく付き合うことができず、株式投資から撤退する人が非常に多い。

筆者は人から株式投資のアドバイスを求められることも多いのだが、筆者が過去の相場を例にあげるとあまりいい顔をしない人が多い。昔のことなどいいから、この先どうなるのかを知りたいというワケである。

気持ちは分かるのだが、このタイプの人はたいがい投資で失敗する。それは無意識的なものかもしれないが、市場リスクに対してあまりにも鈍感なのである。

おそらくこのような人は、いい銘柄を探すことができれば、株は儲かるものだと思っているフシがある。つまり個別銘柄のリスクしか存在しないと思っているのだ。レストランを例にあげれば、味さえよければ、顧客は絶対に入ると思っているということになるのだが、現実はそうはいかない。

バブル経済が本格化する1985年当時、日経平均株価は1万2000円を切っていた。その後、株価はあれよあれよという間に上昇し、1989年には4万円に迫るまで上昇した。その後、バブル崩壊によって株価は暴落。2003年には7000円台まで下がってしまった。

1985年の水準を上回ったのは、2007年のプチバブルの時と、アベノミクス相場となった今の2回しかない。もしバブル崩壊直前や、2007年のリーマンショック直前に株を買ってしまっていたら、どんなに立派な個別銘柄に投資していても、下手をすると20年以上、株価が買値を上回らないことがあるのだ。市場全体の流れがどうなっているのかを知ることは、事業や個別銘柄よりもむしろ重要だったりする。
 
投資や事業で成功できる人というのは、市場リスクを抱えているということをよく自覚できた人である。それは不可抗力なので考えてもしょうがない、などと言っている人は、お金儲けへの道は遠い。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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