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大山健太郎 アイリスオーヤマ創業者

会社の成否を分けるのはマーケティングの有無

大山氏のような人物にとって、ピンチは学習のチャンスになるようだ。大山氏はオイルショックの影響で一時は倒産寸前まで追い込まれるという事態を経験している。会社の生き残りのために必死に働く一方で、大山氏は、オイルショックにもかかわらず、何の問題もなく経営できている会社を冷静な目で眺めていた。

生き残っている会社の経営者は、夜になるとクラブに通い、社員は定時退社するなど、一丸となって頑張っている雰囲気はまったく感じられなかったという。一方で自分達の会社は、不況の下、生き残りに必死になっている。大山氏は両社の違いはマーケティングにあると認識するようになった。

これをきっかけにプロダクトアウトの発想をやめ、マーケットイン、さらにはユーザーインという考え方に事業をシフトさせた。同時に販売チャネルの見直しも行い、これが現在のアイリスオーヤマの基盤となっている。冒頭で紹介した、消費者という言葉が嫌いという考え方は、このあたりから始まったものだ。

もっとも消費者目線で製品を提供すると言っても、それを実行するのは容易なことではない。マーケットインやユーザーインというコンセプトを思い付いた実業家は多いかもしれないが、実行できた人は少数派だ。

アイリスオーヤマは、このコンセプトを実践するためにメーカーと問屋を兼ねる新しい業態を模索した。しかしメーカーと問屋は根本的に異なる業態であり、そうであればこそ両者には明確な事業区分が存在している。最大の違いは、品揃えと在庫管理である。

メーカーでありながら、問屋としても十分な能力を備えられるよう、大山氏は徹底して経営のデータ化を進めてきた。好業績の背景にはこうした地道な努力があるわけだが、これを実現する原動力になったのは、やはり徹底したリアリズムだろう。その意味では、大山氏は創業時から、同じビジネスサイクルを繰り返しており、それが富の源泉にもなっているのだ。

*この記事は2016年10月に掲載されたものです

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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