世界中のホテルラバーを魅了するスリランカの建築家「ジェフリーバワ(Geoffrey Bawa)」。
スリランカ独自の文化や大自然を人間の日常と一体化させ、芸術として昇華させ、トロピカル建築の第一人者と呼ばれている。

前半では、バワ建築のリゾートのなかでも、独自の芸術的センスが詰まったホテルを5軒紹介。後半では、自らの理想を体現させた理想郷3軒を紹介する。これらは、自宅や自分の別荘、友人を招くための別邸で、バワの美意識を存分に味わえる空間。現在は宿泊も可能になっている。
また、首都コロンボにはバワ建築が点在しているが、なかでも、おしゃれカフェ「パラダイスロード・カフェ」、シュールな寺院「シーマ・マラカ寺院」ははずせない。3選とともに紹介する。
1. ナンバーイレブン(No.11)
バワが暮らした部屋で真髄を味わう

コロンボにあるジェフリー・バワの自邸兼仕事場。現在は、ジェフリーバワ財団(Geoffrey Bawa Trust)の本部も置かれている。高級住宅地、バガタレ・ロード33通り11番地にある番地に由来し、「ナンバー11(イレブン)」と呼ばれる。

インテリアのほぼすべてが生前のまま残され、リビングや寝室には、旅で買い集めた収集品、アート作品やアンティーク、ホテルで使うため自身がデザインした椅子やテーブルなどの試作品が当時のまま保存されている。広いリビングと寝室は、バワが愛着を持って創り上げた空間。バワの使っていたソファに座って、数々の装飾品を眺めれば、バワを身近に感じることができるだろう。宿泊者は一組だけなので、なかなか予約がとれないが、宿泊者でなくても、見学ツアーが開催されている。
No.11
33rd Lane, Bagatelle Road, Colombo 3
2. クラブ・ヴィラ
友人を招くために、コロニアル調の建物を改装

バワが友人を招くために、19世紀に建てられたコロニアル調の建物を改装して建てられ、2019年に隈研吾がリノベーションを行った。

17室の客室には、オランダ統治時代の家具が配置され、天蓋ベッド付きのコロニアル風が異国情緒を漂わせる。スタッフのフレンドリーなおもてなしに、友人宅に招かれたような心地よい時間が流れる。
庭の敷地内に電車が走っており、線路を渡るとどこまでも碧いインド洋が広がる。広い庭にはプールもあるが、11月~4月まで泳げる。誰もいないビーチでのんびり過す贅沢な時間を堪能したい。
Club Villa
138/15, Galle Road, Bentota, Sri Lanka
3. ルヌガンガ
バワが築き上げた唯一無二の理想郷

バワが生涯をかけて造った別荘。広い敷地に川が流れ、「塩の川」という名“ルヌ(塩)ガンガ(川)”と呼ばれる。建築デザイン、家具やインテリア、オブジェすべてにバワのこだわりが溢れている。
バワ建築に興味のある人には外せない、最もバワらしい場所。熱帯雨林が生い茂るスリランカの湖畔の土地に、周囲の自然に溶け込むように設えられたバワの館と庭。
留学時に見たイギリスのカントリーハウスとイギリス庭園や長期滞在をしたイタリアのヴィラとイタリア庭園に少なからず和のテイストも取り入れられている。

東洋、西洋、アンティーク、モダンをトータルに統一感を持つ美に昇華させる。ルヌガンガはホテルというより純粋なアート空間である。
ルヌガンガガーデンは、宿泊者でなくても一般のガーデンツアーに参加でき、ガイドさんがゆっくり案内してくれる。広い敷地には、水田があったり、ハスの花の咲く池があったり、無国籍な雰囲気のなか、イタリア彫刻や遺跡のオブジェ、スリランカの現代アートがときおり現れる。バワがランチを食べていたテーブルがそのまま残されており、バワの好きだった風景やそこに流れる空気を体感することができる。
夜は枝ぶりもアーティスティックな大木の間から見える静かな湖畔を眼前に、なんとも趣きあるレストランで食事ができる。スリランカには、さまざまな熱帯植物を見ることができるが、花や実の付け方、枝や葉の形状が、もはや芸術作品のようだ。
夜ともなれば広い敷地は漆黒の闇。本館と離れたゲストハウスのシナモン棟には、スタッフが案内してくれる。敷地内では、マングースやイノシシなどの野生動物に遭遇することもあるので自然のなかにいることを実感できる。
Lunuganga
Dedduwa, Bentota 80500, Sri Lanka
パラダイスロード・カフェ
バワの事務所をカフェにコンバート、光と影が交錯する自然空間

コロンボには、バワが事務所として利用していた建物がカフェになっている。木々がお茂り、緑あふれる中、白と黒を基調にしたおしゃれな空間で食事やティー・タイムを楽しむことができる。スリランカの象徴、フランジパニーの木々をそのまま配したハーフオープンエアの店内には、バー、カフェ、レストラン、ショップがあり、バワらしい洗練の極みを体感できる。
バワが計算して演出した光の変化でカフェの雰囲気が変わるため、1日中滞在するファンもいるほど。
軽食はスリランカ料理以外にイタリアンなどもあり、スイーツのおいしさも特筆もの。ショップには、スリランカの職人の技とモダンなデザインを融合したグッズが並んでいる。
シーマ・マラカ寺院

ペイラ湖に浮かぶ都会の仏教寺院シーマ・マラカ寺院は、1978年建立されたバワ設計のコロンボ・ベイラ湖に浮かぶ仏教寺院。スリランカだけでなく、アジアの仏教国のなかでも唯一無二のモダンな寺院。ゴールドの仏像に囲まれ、光と影のコントラストが湖畔に反射し内部を照らす。湖の対岸にはビルが立ち並び、都会と寺院の対比に圧倒される。光り輝く何体もの仏像越しに広がる都会の風景にはバワの美学が詰まっている。
取材/文 山下美樹子








