ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

8014台 
世界最高峰の中小企業フェラーリ

エンツォ・フェラーリの教え

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フェラーリは創始者であるエンツォ・フェラーリがレースで勝つためのクルマ作りを目的として誕生した自動車メーカーだ。当初は、彼らが参戦するレースの為に必要なモデルだけを作ればよかった。しかし、レース活動の規模が大きくなり、そこに参戦するためのコストがどんどん高くなってくると、食い扶持を見つけなければならなくなった。

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そこで、エンツォはレースにおける活躍を連想させるようなスポーツカーを作った。その公道を走ることの出来るように仕立て上げられたモデルを富裕層に売ったのだ。そして、その売り上げをレース活動の為にあてた。エンツォの作ったフェラーリブランドに関するストーリーに、富裕層達はイチコロであった。特に第二次世界大戦後の世界経済を手中に収めた北米マーケットはまさに“金のなる木”であった。

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時代と共にフェラーリのラインナップも広がり、生産台数は増えていった。フェラーリを欲する富裕層も全世界レベルで急激に増加していたのだ。現在の技術をして、生産ラインの規模を拡大するなら、精密なフェラーリといえども、生産台数を拡大することはそう難しくはない。そんな2000年代初頭からはじまったブームの中で、フェラーリのマネージメントは増産を考えなかったのだろうか?

2013年は売上高23億ユーロ、最終利益でも2億4600万ユーロの増収増益、年間の総生産台数は6922台とフェラーリは絶好調であった。当時のフェラーリ会長であったルカ・ディ・モンテゼーモロは、中国市場の急激な拡大がフェラーリのブランド・ポリシーにそぐわないこと、そして、それに伴う総生産数の急増はフェラーリの希少性を脅かすものであると、公式なコメントを発表した。そして中国市場への販売の制限を行い、さらに年間生産台数を絞ってしまった。

つまり、フェラーリは需要が増えたからといって会社規模を大きくして生産台数を増やすという選択をしなかったのだ。供給が需要を上回る、つまりモノが余った状態となってしまうなら、ブランドの価値の毀損を招くというフェラーリに代々受け継がれている哲学をモンテゼーモロは尊重したのだ。だから、フェラーリは一台でも多く売る為のマーケティングではなく、よりフェラーリを欲する気持ちを奮い立たせるような場面づくりに全精力を傾けるのだ。

フェラーリは2015年10月、ニューヨーク証券取引所にて新規株式公開を実施した。

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このことによって、今までベールに包まれていたフェラーリの経営は“数値化されて”私たちの目の前に現れた。モンテゼーモロの後を継ぎ、マネージメントを行うセルジオ・マルキオンネは株式公開に続いてフェラーリの積極的な将来への展開をアピールし、生産台数の拡大を発表した。攻めの経営を語り、株価を上げ、投資家達を満足させるのが経営者の仕事なのだから・・・。

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左:モンテゼーモロ、右:マルキオンネ

ところがどうであろうか、その発表と共に、株価はさっと下落してしまった。フェラーリがその希少性を武器にブランドの価値を高めていることを世界の投資家達も解っていたのだ。

年間生産台数8014台。この数字の行く末はいかに?


越湖 信一(えっこ しんいち)
EKKO PROJECT代表

イタリアに幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンタメビジネスに関わりながら、ジャーナリスト、マセラティクラブオブジャパン代表として自動車業界に関わる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリストとして活動する他、クラシックカー鑑定のイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に「Maserati Complete Guide」など。


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▼越湖信一著
 
フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング
 
KADOKAWA/角川マガジンズ 2,484円
 
現代の日本のものづくりには、長期的に見て自分達のブランド価値を下げたり、本来苦手なコモディティビジネスに自らを落とし込む悪い癖がある。クルマに興味の無い人にこそ、是非この本を読んでもらいたい。機能的に理に適っていないスーパーカーにこそ、人間が無駄なものを欲しがる本質のヒントがある。(カーデザイナー 奥山清行)

エンリッチ編集部

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