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レッドブル・エアレース・パイロット 室屋義秀

Photo by Samo Vidic / ©Red Bull Content Pool

トム・クルーズ、ハリソン・フォード、ブラッド・ピットにアンジェリーナ・ジョリー。彼らの共通の趣味は自家用飛行機の操縦だ。欧米の富裕層の中ではすでに「飛行機を持つ」から「自ら操縦する」ことに興味が移っている。同時に欧米では最もエキサイティングなスポーツのひとつとしてエアロバティクス(曲技飛行)にも関心が集まり、スカイ・スポーツへの人気も急上昇している。そんな中「世界最速のモータースポーツシリーズ」とも言われるその世界最高峰のレース「レッドブル・エアレース」にアジア人唯一参加している日本最高峰のエアロバティックス・パイロット室屋義秀が今シーズン第二戦目において、アジア人として史上初の表彰台(三位)に登るという快挙を果たしたのである。日本でも今後人気沸騰が間違いないこのニュースポーツにいちはやく注目してみた。

アジア人初の表彰台に
今後の活躍にも期待

「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」は2003年より開催され、世界中で数百万人もの観客が観戦し、大変な興奮と感動を呼び起こしてきたもの。レッドブルのサポートするスポーツの中でも花形的なものだった。安全性をより確保するために3年の月日を経たこの大会はスカイ・スポーツファンにとっては本当に待ち遠しかった大会。世界の頂点を目指し2009年より参戦していた室屋義秀にとっても待ちに待ったレースであったのだ。

2014年4月12日(土)~13(日)、クロアチア・ロヴィニにてレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第二戦が開催された。イストラ半島の西海岸、豊かな自然と多くの史跡に恵まれたこの地中海の港町は、情緒あふれる地中海文化を感じられる街。ロマンチックな雰囲気にあふれるこのアドリア海に面した美しい港町で、世界最高のエキサィティングなモータースポーツ・イベントが開催されたのである。

Photo by Joerg Mitter / ©Red Bull Content Pool
Photo by Samo Vidic / ©Red Bull Content Pool

特殊な風が吹くこの地域で多くのパイロットが「パイロン・ヒット」でレースから脱落。先月のアブダビでのシーズン開幕戦で好成績をおさめた室屋は、すでに周囲の注目を集めていた。期待に違わず室屋はこのロヴィニの風を克服。優勝のハンネス・アルヒ(オーストリア、2008年世界チャンピオン)の59.01秒にわずかに及ばず、前チャンピオンのポール・ボノム(イギリス)に続いて1分0.13秒で3位につけた。

Photo by Joerg Mitter / ©Red Bull Content Pool

Photo by Tomislav Moze / ©Red Bull Content Pool

レース後のインタビューで室屋は「今日は急に風が変わって非常に厳しいコンディションでしたが、ラッキーにも前に飛んでいる人たちのトラックを見て、うまく自分のフライトに活かすことが出来ました。アジアの代表として参戦していて、航空界でアジア人が表彰台に立つのは初めてというのは本当にうれしく思い、大変光栄です。」と語った。この時点で総合でも4位につけた室屋の今後の活躍にも期待したい。

エアロバティックス・パイロット 室屋義秀

空を自由自在に飛び回る「エアロバティックス(曲技飛行)」のアジアを代表する選手となった室屋義秀。22歳の時に見たエアロバティックス世界選手権「ブライトリング・ワールドカップ」に衝撃を受けてこの世界に入ったという。そのルーツは「機動戦士ガンダム」「紅の豚」であり、パイロットになりたいという子供からの夢も「自由に大空を飛びまわること」だったという。決して旅客機のパイロットになりたかったわけではないようだ。

大学に入部すると、すぐにグライダー部に入学したものの、もっと「自由に飛ぶ」ためにアメリカで飛行機免許を取得。運命的に1995年の「ブライトリング・ワールドカップ」を見ることによって、大きな衝撃を受けた室屋は、自らの目標を定めることになる。それは「世界最強のパイロット、操縦技術世界一を目指す」ことだった。「現実に起きていることには思えない、こんなことを出来る人間が世の中にいた」ということに愕然とした室屋は自分もこれをやりたい、と強く思ったのだった。

エアロバティックス世界選手権に出場する一方、2009年からレッドブル・エアレースに参戦。飛行機の操縦技術を競う全ての競技において誰にも負けない、世界最高の技術を持つパイロットが室屋の目標である。この競技は機体を自らの手足のようにコントロールする技術が必要となる。その技術は全く常人の想像を超える領域にあり、同乗すれば実感できるが、機体を自由に操るそのコントロールはまさに「神業」に近い正確さを見せる。おおげさでなく数cm、コンマ以下の角度の違いを修正しつつ機体をコントロールし続けねばならないのだ。

スカイ・スポーツの宿命的なことであろうが、室屋もこれまでに「シビアな状態」を幾度か経験している。それを克服するには日々の訓練の積み重ねに加え、メンタルコントロールも非常に重要だという。さらに理論的な裏づけを伴ったイメージトレーニングは欠かせず「頭の中でフライトを再現させて自分の力でコントロールすること」それがレッドブル・エアレースの難しさであり、醍醐味なのである。現在は後進の育成にも力を注ぐ室屋。ふくしまスカイパークをベースにして、世界に福島の現状を正確に伝える活動も行っている。世界の頂点を視界に捉えた彼の今後の活躍に期待したい。

室屋義秀(むろや よしひで) プロフィール

173cm/70kg 福島県福島市在住
総飛行時間:約2500時間(内エアロバティック飛行時間:約850時間)
エアショー、レッドブル・エアレース・パイロット。国内ではエアロバティックス(アクロバット/曲技飛行)のエアショーパイロットとして全国を飛び回る中、全日本曲技飛行競技会の開催をサポートするなど、世界中から得たノウハウを生かして安全推進活動にも精力的に取り組み、スカイ・スポーツ振興のために地上と大空を結ぶ架け橋となるべく活動を続けている。

エンリッチ編集部

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