ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

アートローヤー 小松隼也 
世界基準のアートコレクターとは

アジアでも整備が進む
アートの税制

E:コレクターとしての成熟度が日本よりも高いですね。日本にはそこまでのコレクターはなかなかいないと思いますが。

小松:海外のコレクターは作品の難解なコンセプトや作家の意図を理解して、それを人と話すことが楽しみになっているんです。そして、税制の整備もコレクターを増やすには重要ですね。アートを寄付することは社会貢献だけじゃなくて、プラスアルファのメリットがある。以前、海外の著名キュレーターと話したとき「日本はアートに関する税制がないのに、どうしてコレクターは作品を買うの?」と真剣に聞かれましたから。

エンリッチ 小松隼也5

先ほど話したガラパーティが1席50万円だとしても大半が税額控除の対象で事実上返ってくる上に、食事代や参加特典があるのでリターンが大きいんです。また、ここ数年で韓国、シンガポールをはじめとしたアジア諸国は、アートに関する税制を整備していますが、日本はまだこれからといった状況ですね。しかし、2015年に改正された、100万円未満の作品が減価償却の対象になるという制度は海外にはあまりありません。これは、100万円未満の作品購入費を経費として算入することが可能になりますので、今後注目の若手作家の作品を買う場合などには、とても大きなメリットを得られます。ただし、それ以上の価格の作品となると税務上のメリットは現状ではほとんどありません。仮に、海外と同様に高額作品に関する税務上の優遇制度が整備されれば日本のアートマーケットも成長する見込みがあるように思います。

作品を放出するときは
市場が求めるタイミングで

E:アートの世界では信頼も重要かと思います。信頼されるコレクターの条件を教えてください。

小松:当然ですが、ギャラリーから買ってすぐに転売するような人は信頼されません。コレクターと一口にいっても、この人に作品を所有してもらうだけで価値が何十倍にもなる大コレクターもいれば、選りすぐりの審美眼で将来有望な若手作家を収集する人もいる反面、投資対象としての側面にのみ注目している人や有象無象の人まで、とにかくたくさんのコレクターがいます。人気作家の代表作ともなると、世界中から欲しい人が集まり、中には3倍の額を出すから作品を売ってくれというコレクターもいますが、ギャラリーとしては最も信頼がある人に売るように思います。信頼されるコレクターとは、転売目的で作品を購入するのではなく、その作品を大事にしてくれるうえに、作品の価値自体を上げてくれる人だと思います。たとえば、世界中にその作品の素晴らしさを紹介してくれる人、作家の制作支援をしてくれる人、作家にとって重要なタイミングで作品を市場に出してくれる人、美術館がその作品を貸してほしいときに貸し出してくれる人、などなど。ギャラリーは信頼のある人に作品を譲らないと、作品がマネーゲームに晒されてしまうんです。

E:小松さんはどのくらいの作品を所持されているんですか?また、作品を売却したことはありますか?

小松:だいたい40点~50点くらい作品を所有しています。作品を売却したことはありませんが、親しくしている作家の重要な作品を「作家本人が市場に出してほしい」と考えるタイミングがあれば、自分が出したいとは考えています。たとえば、作家の注目が世界的に高まり、海外の著名ギャラリーで新作を発表する際などに、基本的にはその作家の新作が展示・販売されることになりますが、過去の代表作や初期の作品などが同時にオークションマーケットに出されていれば、作家にとっては相乗効果が生じて世界中のコレクターの注目が集まります。また、オークションレコードが更新され、キャリアップに繋がることもあります。それはアートマーケットのルールに沿ったシステムなのですが、親しい作家がそれを望むような状況であれば、その役目は是非自分が担いたいという想いがあります。

小松氏の自宅には数多くの作品が飾られている。
小松氏の自宅には数多くの作品が飾られている。

海外のコレクターは、「好きな作家がこんなにも素晴らしい作品を作っているのだから、マーケットでの役割は自分に任せておけ」と思っている人も多いように思います。若手作家の一連の作品を買い続けて、作家にとっていいタイミングで特定の作品を市場に出して、最終的に作家が著名になったら、自分が手元で大事に保管してきた重要なコレクションを自分の名前入りで大きな美術館に寄贈して、より多くの人に見てもらう。そういったことが普通に行われています。

エンリッチ編集部

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