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ジョン・ロックフェラー(スタンダード石油創業者)

ビル・ゲイツも真っ青の資産規模

もっともビジネスというのは一種の戦争であり、きれいごとだけで済まされる世界ではない。ジョンはしばしば、かなり強引なやり方で石油の精製・流通ビジネスを拡大してきた。

よく知られているのが鉄道会社と組んだカルテルの結成である。石油ビジネスを成功させるためには運送手段の確保が重要となる。彼は鉄道会社と組んで、競合他社を輸送から締め出し、自社が優先的に石油を輸送できる仕組みを構築した。

マスコミ報道などで彼はかなり批判されたが、ジョンは意に返さず、強引な拡大策を継続している。彼は競合を買収する際、まずは自社の経営規模を説明し、傘下に入ることを丁寧に説得したという。だが相手がそれを受け入れない場合には、あらゆる手段を行使して相手を経営難に追い込み、強引にグループ内に吸収したと言われる。

こうした強引な手法によって、やがてスタンダード石油は、精製や流通のかなりの部分を支配する独占企業となった。石油流通のほとんどをスタンダード社が握っているので、石油の価格はジョンの思いのままとなり、グループには莫大な富が蓄積された。これがロックフェラー・グループの富の源泉である。

もっとも米国は、今も昔も、競争第一主義であり、企業の独占を嫌う風土だ。当然、スタンダード石油に対しては全米各地から非難の声が上がり、1911年には連邦最高裁が独占禁止法(反トラスト法)違反を認定。同社は30以上の会社に分割された。現在、石油メジャーと呼ばれる、シェブロンやエクソン・モービルといった企業は、スタンダード社が分割して出来上がったものである。

ロックフェラー・グループは解体されたが、一族は多くの企業の株主として資本市場の世界では長期間にわたって影響力を行使した。おそらくこうした投資家としての活動が、ロックフェラーの名前を長く記憶にとどめさせることになり、一部からは陰謀論も出てくる結果になったものと思われる。

ちなみに、ジョンはスタンダード社が解体された1937年の段階で10億ドルの資産を持っていたと言われるが、当時のGDPは約920億ドルなので、GDPの1.1%に相当する。現在の米国のGDPは18兆ドルなので、同じ比率を適用すると約2000億ドル(20兆円)という金額になる。

現在、世界でもっとも多くの資産を持っているのは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏だがフォーブスによると資産総額は750億ドル(約8.5兆円)となっている。ゲイツ氏やウォーレン・バフェット氏といえでも、当時のロックフェラー氏にはまったく及ばない水準だ。

*2017年1月掲載

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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