時間を大事にするからこそ得られた時間を買うという概念
では、このようにして確保した時間をゲイツはどのように使うのだろうか。これは冒頭の考える週の話とも関係するが、空いた時間を日常業務の埋め合わせには使わないということろがポイントだ。IT業界は変化が早く、10年先の事は誰にも分からないといわれる。それでもゲイツ氏は、自分自身にも、そして社員にも長期的視点で戦略を組み立てるよう、口を酸っぱくして説いていた。
細かい技術は状況によって変わることがあるかもしれないが、大きな流れはそうそう変わらない。長期的な時間軸を前提に、今という時間に割り戻しを行い、ゴールに到達するまでの最短コースを考える。これがゲイツ氏が到達した究極の時間マネジメント術である。
ちなみにゲイツ氏は、根っからのプログラマーであり、同社がかなり大きくなってからも、自分でプログラムのコードをチェックしていた。しかしマイクロソフトが飛躍するきっかけとなった、パソコン用のOS(基本ソフト)であるMS-DOSは自社開発せず、お金を出して他社から買ってきて、顧客であるIBMに納入している。
つまりマイクロソフトの中核技術は実は、外部調達だったのである。技術に絶対の価値を置くゲイツ氏としては意外な行動だが、この不可解な決断も時間軸という点で見れば納得がいく。
IBMが開発したパソコンは、当時、オモチャのような存在にしか思われていなかったが、ゲイツ氏はこれをひと目見た瞬間で、全世界規模で巨大な市場に成長すると直感した。ここでソフトを自社開発すれば時間がかかってしまい、ビジネスチャンスを失ってしまうかもしれない。
将来のロードマップが見えていたゲイツ氏にとっては、カネで時間を買うことにまったく躊躇はなかった。要求仕様に合致するソフトを探し、改良を加えて自社ソフトとして納入。パソコンはゲイツ氏の読み通り、途方もない産業に発展し、これが現在の同社の基礎を作った。
ゲイツに鋭い時間のマネジメントという概念がなければ、自社開発にこだわってしまい、パソコン用OSの分野での現在の地位を確保することはできなかっただろう。プログラマーとしてのこだわりをはね飛ばすくらい、彼の時間の感覚は鋭いものである。
この感覚は、あらゆる業種のビジネスパーソンが応用できるはずだ。これからはAI(人工知能)の普及で知的作業の生産性は何十倍にも拡大する。時間を確保できた人とそうでない人の差も、同様に何十倍にもなってしまうのが、AI時代の特徴である。当然のことながら、これは富の形成にとてつもなく大きな影響を及ぼすことになるだろう。
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