
M&Aは、オーナー経営者が築き上げた事業を次へとつなぐ、経営における重要な意思決定のひとつです。しかし、M&A実行後になって買主とトラブルになってしまうケースは少なくありません。M&Aの成功は、単に契約を締結することではなく、その後に生じ得るリスクを予め見越して、受領した譲渡代金を返還請求等から守り抜き、確実に確保することにあります。
本稿では、M&Aの実行後に把握しておくべきリスクとその対応策について、売主側の目線で前編・中編・後編の3回にわけてポイントを解説します。今回は、その中編です。
中編では、M&A(株式譲渡)の実行後に発生、あるいは発覚した問題を理由に、買主から損害賠償などの金銭請求を受けたケースを扱います。売主として不測の事態に直面した際、どのように対応すべきか、その要点を解説します。
1. 損害賠償請求を受けてしまった場合の対応
株式譲渡実行後、事後的に発生、あるいは判明した事情によって、買主から金銭請求がなされる場合があります。
具体的には、表明保証条項やコベナンツ(遵守事項)条項の違反を理由として行われることが挙げられます。その請求は、株式譲渡契約の補償条項(契約上の義務違反や表明保証違反があった場合に、契約の相手方が被った損害等を補填する条項)に基づくものや、民法上の債務不履行責任や錯誤取消し・契約解除による代金返還請求の形式をとる場合があります。
請求を基礎づける事実関係や証拠の有無を確認することはもちろんですが、売主側からも反論できる事情がないか確認し、検討することが重要です。
売主側からの主な反論ポイントは以下のとおりです。
・開示別紙(ディスクロージャー・スケジュール)による除外の検討
表明保証条項に違反するような事実などがすでに認識されている場合、あらかじめこれらの事実等を開示別紙に記載し、表明保証の対象から除外している場合があります。買主は、開示別紙に記載された事実について、表明保証違反等を理由とした請求ができなくなる可能性があることから、買主からの請求が開示別紙に記載された事実に基づくものではないかを確認することが必要です。
・買主の認識(故意・過失)についての検討
買主が問題となる事実を契約時に知っていた場合、または過失(重大な過失の場合もあります)によって知らなかった場合に、表明保証違反の責任追及が制限される可能性があります。
・期間制限に関する規定の確認
契約書で定められた補償請求期間を過ぎている場合には対応の必要がない場合もあります。ただし、期間制限の例外となる特別補償請求条項に該当しないかの確認も不可欠です。
・救済手段の限定に関する規定の確認
契約上、金銭補償以外の救済手段(解除など)を排除している場合、その定めに従って対応を制限できる余地があります。







