4. 説明義務違反を主張された場合の対応
「重要な事実を告げなかった」という説明義務違反の主張に対しては、慎重な対応が求められます。説明義務には、その内容によって以下のようなグラデーションがあります。
・消極的な説明義務
虚偽の説明をしない義務
・積極的な説明義務
買主からの積極的な開示要請がない場合においても、不利益な情報を自ら開示する義務
前者(消極的な説明義務)については、当然の義務として認められる傾向にありますが、後者(積極的な説明義務)については、実務上争いがあります。
裁判所は、売主に対し積極的な情報提供を求める「積極的な説明義務」については慎重なスタンスをとっており、積極的説明義務を否定する例もあります。
しかし、以下の要素によっては義務違反が認められる余地があります。
まず、売主と買主の間の「情報量や交渉力の格差」に加え、買主側が行った「調査(デューデリジェンス)の内容や精度」が考慮されます。 あわせて、買主が適切な調査を尽くしていたか、逆に売主が調査を妨げたり虚偽の回答をしたりしなかったか、という点も重要です。さらに、その情報が契約締結の判断を左右するほど重要だったか(=知っていれば取引を中止していたか)という点も判断の鍵となります。
そもそもの問題として、情報提供や事実の開示に関わる問題が、表明保証違反を構成する場合、補償責任を負う可能性があることにも注意が必要です。
売主としては、買主はどのような説明義務違反を問題としているのか、その主張や根拠を確認し、買主の主張に理由があるのか否かを過去の裁判例等を分析して対応していくことが鍵となります。
M&Aが無事に終了した後でも、買主から予想外の金銭請求を受けるリスクは常に付きまといます。買主の主張に対して、契約書で定めたルールや開示済みの事実を根拠にどこまで反論できるかは、受領した売却代金を守るための重要な分かれ目です。しかし、賠償額の計算や説明義務の有無といった判断には、過去の裁判例なども踏まえた高度な見極めが欠かせません。事態が悪化して取り返しがつかなくなる前に、弁護士等の専門家に相談し、最善の対応を検討することをお勧めします。
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