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Rolls Royce 
ロールスロイスドーン

エンジンは6リッターV12で、最高出力は570psを発揮する。最大トルクはなんと780Nm。それを1500回転から発生させるという扱いやすいものだ。これはクーペのレイスではなくセダンのゴーストと共有する。つまりレイスほどGTカー的ではないということになる。

ただ、ロールスロイスに関してこうしたスペックはそれほど重要でない。かつて「必要にして十分」と書いてあった諸元表の歴史をたどれば、無意味な気がしてならない。出力に関しカスタマーにプアと思わせることはあってはならないし、彼らの口を借りればありえないからだ。

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いうまでもないが、実際に走ってパワートレーンに不満を抱くところはなく、逆になぜこれほどまでステアリングはニュートラルでアンダーステアもオーバーステアにもならないのだろうと思えた。というのも、隣にグッドウッドでビスポークを担当している責任者を乗せながらも、ワインディングをけっこうハードに攻めたからだ。ステアリングをスッと切るとこの大きなボディが全体で向きを変え、思い描くラインをきれいにトレースする。  

しかも、任意にシフトチェンジをしなくとも8速ATがコーナーの前後で適切なギアを選んでくれる。タイトコーナーが続くと2速ホールドに、出口でアクセルを踏み込めばタイムラグなくそこから必要なギアで加速を続ける。これはレイスから開発、採用されるGPSを使ったサテライトエイディッドトランスミッション(SAT)の恩恵らしい。衛星を使い先の道を読みそれで適切なギアを用意するというものだ。この技術はなかなか秀逸に思える。

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ルーフはスイッチひとつで約20秒でオープンになる。時速50キロまでであれば走行中も開閉可能だ。驚いたのはこのトップの剛性感の高さ。6層からなるファブリックが閉まると、オープントップであることを忘れさせるくらいクーペライクとなる。その第一の要因は静粛性の高さに他ならない。もはやメタルトップの存在を否定するくらい外界のノイズをシャットアウトする。そして高品質のオーディオサウンドがキャビンに響き渡るのは、言わずもがなである。もちろん、クルマ自体が静かなのは今回も変わりない。新たな夜明けを意味するドーンは、ゴーストやレイス(ともに幽霊の意味)とともに音もなくやってくる。

といったのが今回の南アフリカ、ケープタウンでのインプレッション。大西洋とインド洋がつながるこの地がどこか特別に思う体験だった。Something Specialを感じさせるこの雰囲気はやはりロールスロイスが孤高な存在であることを意味するであろう。CEO Peter Schwarzenbauer氏はこうも言っていた。「我々は自動車業界の製造業のひとつではなく、ライフスタイルをクリエイトしているのだと」。そして「ロールスロイスはピナクル(頂点)」でなくてはならない」、と続けた……。

九島辰也

九島 辰也 (くしまたつや)

モータージャーナリスト兼コラムニスト/ 日本カーオブザイヤー選考委員。「Car EX(世界文化社)」「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON(エイ出版社)」編集長「LEON(主婦と生活社)」副編集長を経て、現在はモータージャーナリスト活動を中心に様々なジャンルで活躍。2015年からアリタリア航空機内誌日本語版編集長、2016年から「MADURO(RR)」総編集長もつとめる。

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