ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

エキゾチック・レザーの選び方


Q

「よいクロコダイル製品の見分け方について教えて下さい」


A

「クロコ製品の価格は、どの種類の革を、何匹使用し、どの職人が作ったのか、で決まります」

悪い革の一例。穴があいていたり、キズがついていたりする粗悪品。クロコダイルは1級から4級にまで等級が分けられており、キズがないものほど上等となる。
悪い革の一例。穴があいていたり、キズがついていたりする粗悪品。クロコダイルは1級から4級にまで等級が分けられており、キズがないものほど上等となる。

——では、具体的に店頭でクロコダイル製品を吟味する場合、どんなところに注意したらよいのでしょうか?

「まずは今までご説明した、どんな革を使っているのか、が重要です。斑の大きさとキズの有無が鍵ですね。安価なものは色ムラや、キズが多い。またシャイニング仕上げにすると、小さなキズは消えるので、マット仕上げでキズがないものは高級といえます。クロコダイルはキズの有無で1級から4級まで分けられており、ガラスの上で下からライトを当ててチェックするのです。ウチでは1級でも6割位は返却させていただいてます。安価なものになると、革をくりぬいて他の部分の穴を埋めたりしている物もあります」

——あとはどういうポイントに注意したらよいですか?

「革をどのように使用しているのか、を見ましょう。例えば、同じ長財布でも、大きな一枚革で出来ているものと、二枚の革を接ぎ合わせているものとがあります。当然、前者のほうが高級です。それから、“センター取り”か“横取り”かも、わかりやすいポイントです。腹の真ん中から左右対称に革を取った製品であるセンター取りのほうが美しいし、高級です」

大きな革の中央から、一枚取りされた上等の財布。真ん中の二つ折りする部分で革が継ぎ合わされているものも多い。チェックしてみよう。サイズH9×W18×D1.5cm、17万6千円(ZAO/ザオー産業TEL. 03-3807-5281)
大きな革の中央から、一枚取りされた上等の財布。真ん中の二つ折りする部分で革が継ぎ合わされているものも多い。チェックしてみよう。サイズH9×W18×D1.5cm、17万6千円(ZAO/ザオー産業TEL. 03-3807-5281)
一見同じように見える名刺入れだが、左は、大きな革のサイド部分から切り取った“横取り”である。右は個体の腹部分を真ん中から切り取った“センター取り”だ。右の名刺入れは、小さな斑模様が左右対称に、美しく並んでいる。当然こちらの方が高級だ。サイズH7.5×W10.5×D1cm、左:6万4千円、右:8万円(ZAO/ザオー産業TEL. 03-3807-5281)
一見同じように見える名刺入れだが、左は、大きな革のサイド部分から切り取った“横取り”である。右は個体の腹部分を真ん中から切り取った“センター取り”だ。右の名刺入れは、小さな斑模様が左右対称に、美しく並んでいる。当然こちらの方が高級だ。サイズH7.5×W10.5×D1cm、左:6万4千円、右:8万円(ZAO/ザオー産業TEL. 03-3807-5281)

——作りについては、どのようなところチェックしたらいいでしょうか?

「コバの仕上げなどは、作りの丁寧さを見るにはいいでしょうね。クロコダイルの製品作るということは、普通のカーフとは全然ちがうのです。これは同じ製造業でも、クルマとオートバイほどに違いますね(笑)。ミシンや道具もまるで違うし、職人の技術も違う。基本的にカーフは流れ作業で出来ますが、エキゾチックレザーの場合は、必ず一人の職人が一つのバッグを丸ごと作ります。一人前になるまで、まぁ20年以上はかかりますね」特にコードバン(馬革)と違いワニのコバ磨きは大変な作業です。

——そんなにかかるのですか? 

「そうです。しかも20年経っても上達しない人もいる。向き不向きがあるのです。しかし、他のデザインはまるでダメだけど、一型だけは誰にもマネできないようなものを作る職人もいて、これがこの世界の不思議なところです」

——なるほど、この世界は職人さんがすべてなのですね。

「そうです。クロコダイルの原皮の厚みは数センチもあり、なめし業者の段階で、数ミリまで薄く加工されますが、職人はさらにソフトな製品を作るために、仕入れた革を一段と薄く削ぐという作業をしなければなりません。しかし削ぎすぎると破れてしまう。ここが難しいのです。いまウチの工場でも、最高度のバッグを作れる職人は5人しかいません。そして彼ら全員が60歳代です」

——失礼ながら、ずいぶんとお年を召した方がやっているのですね。

「そうなんです。今この業界は、深刻な後継者不足に悩んでいます。多くの職人たちは60歳代で、若い人がいないのです。一番の若手でも40歳代ですからね。このままいくと、貴重な技術が失われてしまう可能性があります」

手間のかかる丁寧なコバ仕上げが施されたブリーフケース。職人技が光る仕様である。
手間のかかる丁寧なコバ仕上げが施されたブリーフケース。職人技が光る仕様である。

——34年間もこのお仕事を続けられているわけですが、どのような時が一番嬉しいですか?

「それは、いい商品が上がった時が一番嬉しいですね。自分の思っていた以上にいいものが出来上がると、今でもワクワクします。工場のスタッフ、職人さん達ががんばってくれているのがわかるから、自分もまたがんばろうと思うのです」

——本日は長い間ありがとうございました。奥深いエキゾチック・レザーの世界が、少しわかったような気がします。大変勉強になりました!


ザオー産業

1960年創業、エキゾチック・レザーの老舗専門メーカー。自社工場を埼玉県川口市に持つ。自らのブランドZAOを擁する傍ら、数々の一流ブランドのOEMも手がける。伊藤忠商事、伊勢丹、高島屋、ユナイテッドアローズ ソブリンハウスをはじめ、多くのセレクトショップからも信頼されている。

東京都荒川区東日暮里5-50-11 ザオービル(5F受付)
TEL:03-3807-5281


※掲載した価格は、すべて税抜きです。

撮影=岡田ナツ子

松尾 健太郎 (まつお けんたろう)

THE RAKE 日本版編集長、クリエイティブ・ディレクター
株式会社世界文化社にて、月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05 年同誌編集長に就任し、のべ 4 年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン編集長、新潮社 ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌“THE RAKE”日本版編集長。

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松尾健太郎

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