ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

ヨコハマ流、お洒落の極意


Q

「往年のファッション・アイテムはありますか?」


A

「長くやっているからね、いろいろとありますよ」

——昔はポピュラーだったけれど、今ではなくなってしまったようなファッション・アイテムはありますか?

「例えばソックスガーターなんて、珍しいんじゃないかな。ソックスを吊るためのバンドだね。今でも愛用している人がいて、ウチの店には置いてある。一時生産中止になっちゃって、国内在庫を全部買い取ったこともあるよ。それからサスペンダーは私自身も愛用している。ズボンのラインがキレイに出るし、最近足が縮んじゃってさ(笑)」

エンリッチ 信濃屋16

いまだに愛用者が多いサスペンダーとソックスガーター。どちらも英国アルバート サーストンのもの。サスペンダーはフェルト製が肩へのアタリがやさしくてよいとのこと。ソックスガーター4800円、サスペンダー1万8000円(アルバート サーストン/信濃屋 TEL 045-212-4708)
いまだに愛用者が多いサスペンダーとソックスガーター。どちらも英国アルバート サーストンのもの。サスペンダーはフェルト製が肩へのアタリがやさしくてよいとのこと。ソックスガーター4800円、サスペンダー1万8000円(アルバート サーストン/信濃屋 TEL 045-212-4708)

——なるほど、老舗ならではですね。他にもありますか?

「スパッツなんかも、珍しいだろうね。主に礼装に使うもので、私も昔ロンドンのジョン ロブでオーダーしたことがある。冬場は意外に温かくていいんだよ。モンローの映画『お熱いのがお好き』には、いつもスパッツを付けているスパッツ・コロンボというギャングが出てくるな」

デザイナー、小高一樹氏率いるブランド、アジャスタブル コスチュームのスパッツ。9500円(アジャスタブル コスチューム/信濃屋 TEL 045-212-4708)
デザイナー、小高一樹氏率いるブランド、アジャスタブル コスチュームのスパッツ。9500円(アジャスタブル コスチューム/信濃屋 TEL 045-212-4708)

——このシャツも珍しい衿の形をしていますね。

「これは開襟シャツだよ。昔はどの店にもたくさん置いてあったのに、いつの間にか、カジュアルシャツといえば、ボタンダウンばかりになってしまった。いい開襟シャツがなくなったので、オリジナルで作ろうと思ったんだ」

昭和の香り漂う開襟シャツ。コットン素材。信濃屋オリジナル。1万2000円(信濃屋 TEL 045-212-4708)
昭和の香り漂う開襟シャツ。コットン素材。信濃屋オリジナル。1万2000円(信濃屋 TEL 045-212-4708)

——シューズでおすすめはありますか?

「いわゆるUチップというのは、昔はこういうデザインの靴のことを言ったんだ。私はアメリカ風の靴が好きなんだよ。これは私が持っている昔のウォークオーバーの昔のカタログなんだが、似たようなものが載っているだろう。この時代のカタログは、全部イラストだったんだ。これがいいんだよなぁ」

1954年当時のウォークオーバー社のカタログと、そっくりなデザインの信濃屋オリジナルUチップ・シューズ。6万3000円(信濃屋 TEL 045-212-4708)
1954年当時のウォークオーバー社のカタログと、そっくりなデザインの信濃屋オリジナルUチップ・シューズ。6万3000円(信濃屋 TEL 045-212-4708)

——ボウタイもずいぶんとたくさん置いてありますね。

「蝶ネクタイは、よく締めますよ。出来合いは絶対だめ。手で結ぶタイプしかやらない。慣れれば簡単だよ。持っているのは、60年代くらいに作られた古いヤツばかりだな」

イタリア製のボウタイ。すべて手で結ぶタイプで、味がある。ボウタイ各9800円(フランコ・バッシ/信濃屋 TEL 045-212-4708)
イタリア製のボウタイ。すべて手で結ぶタイプで、味がある。ボウタイ各9800円(フランコ・バッシ/信濃屋 TEL 045-212-4708)

——カフリンクスやタイバーも充実していますね。

「フランスのルイ・ファグランは面白いよ。1899年創業の老舗で、いろいろな色の石が使ってある。全部スワロフスキーのものなんだ。赤い色のヤツには“ボルケーノ”なんて名前がついていて、ネーミングも洒落ているな」

ルイ・ファグランのカフスとタイバー。これはオニキスを使ったもので、礼装にも適している。カフス1万2000円、タイバー9500円(信濃屋 TEL 045-212-4708)
ルイ・ファグランのカフスとタイバー。これはオニキスを使ったもので、礼装にも適している。カフス1万2000円、タイバー9500円(信濃屋 TEL 045-212-4708)

——なるほど、珍しいアイテムを拝見できて、今日は勉強になりました。白井さんは、どのくらい洋服をお持ちなんでしょうか?

「昔は収入の100%を洋服につぎ込んでいたからな。でもずいぶんと人にあげちゃったから、いまはそんなに持っていませんよ。ネクタイで100本、シャツで50枚くらいかな。スーツは50着、ジャケットは3-40着くらい。靴は一時は百何十はあったけど、これも人にあげて、今では60足くらいだな」

——スーツ、ジャケット類は、ほとんどオーダーですか?

「そう。昔はこの先の弁天通りにいわゆる“唐物屋”がたくさんあって、伊藤博文なんかよく来ていたらしいよ。横浜には古くからそういうものがあったんだね。私もこのへんのテーラーで、よく作っていた。若い頃は細身の三つボタンスタイルが多かったな。プレーンフロントでノープリーツのヤツ」

——イタリアものはいつ頃から扱われたのでしょうか?

「始めはアメリカとイギリスが好きだったんだが、1972年にトリノで行なわれているサミアというレディスの展示会に行ったのが、初めてだった。もっと派手なイメージを抱いていたけれど、思った以上にオーセンティックなので驚いたな。そしてイタリアものも好きになった」

——なるほど、現在の信濃屋には、イギリス、アメリカ、イタリアがバランスよく並べられていますね。本日はありがとうございました!


信濃屋

1866年(慶応2年)創業、日本における洋品店の草分け。現在は、紳士婦人服の製造・販売、洋品雑貨の輸入販売を手がけている。国内屈指の老舗でありながら、クラシコ・イタリアをはじめ、常にメンズ・ファッション・ムーブメントの中心にあった。白井俊夫氏は1950年代より同店にてアルバイトを始め、61年より正社員に。以来60年に亘り店頭へ立ち続けて来た。

左:1960年代はじめ、信濃屋に入社した頃の白井さん。細身のパンツに、足元はなぜか草履。右:横浜のテーラーにて仕立てたスリーピース。ベストは7つボタンにし、ボタン間隔を狭くするなど、細かいこだわりが見て取れる。
左:1960年代はじめ、信濃屋に入社した頃の白井さん。細身のパンツに、足元はなぜか草履。右:横浜のテーラーにて仕立てたスリーピース。ベストは7つボタンにし、ボタン間隔を狭くするなど、細かいこだわりが見て取れる。
1976年、ベニスにて。この頃からポロコートを愛用していた。
1976年、ベニスにて。この頃からポロコートを愛用していた。

エンリッチ 信濃屋27

〒231-0011 神奈川県横浜市中区太田町4丁目50
TEL.045-212-4708 
FAX.045-662-8232
営業時間 11:00~19:00(月曜定休、白井氏は木・土出勤)


※掲載された価格は、すべて税抜き。

撮影=岡田ナツ子

松尾 健太郎 (まつお けんたろう)

THE RAKE 日本版編集長、クリエイティブ・ディレクター
株式会社世界文化社にて、月刊誌メンズ・イーエックス創刊に携わり、クラシコ・イタリア、本格靴などのブームを牽引。‘05 年同誌編集長に就任し、のべ 4 年間同職を務めた後、時計ビギン、M.E.特別編集シリーズ、メルセデス マガジン編集長、新潮社 ENGINEクリエイティブ・ディレクターなどを歴任。現在、インターナショナル・ラグジュアリー誌“THE RAKE”日本版編集長。

連載コラム

松尾健太郎

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