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現代アート投資の歩きかた Vol.3

資産デザイン研究所代表の内藤忍氏が、各界のプロフェッショナルと投資談議に花を咲かせる、この企画。3月は、美術商・アートディーラーの三井一弘氏をお招きして、「現代アート」をテーマに対談を行っている。前回は、ギャラリストやアートディーラーの役割について伺ったが、今回はアート市場の現状に焦点を絞ろう。

年間6兆7000億円という
巨大なグローバルマーケット

内藤 日本にいると、あまりわかりませんが、アート市場の規模はどのくらいなのでしょうか。

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三井 2013年の統計によると、世界のアートマーケットは6兆7000億円。音楽市場が1.兆9000億円ですから、3倍以上の市場規模ということになります。

その背景として挙げられるのは、年間100近く開催される、アートフェアの存在が大きいでしょう。オールド・マスターの世界だと、毎年3月にオランダのマーストリヒトで開催される「TEF AF(欧州ファインアートフェア)マーストリヒト」はアンティークの祭典です。この時期は極寒で空港も閉鎖されているのですが、フェアの期間中は特別に開かれて、プライベートジェットが100機も並ぶほどの人気です。

1970年に始まった、スイスのバーゼルで毎年6月に行われる「アート・バーゼル」は、世界最大の現代アートフェアで、現在は米国マイアミ・ビーチで毎年12月、香港でも毎年3月に開催されるほどに規模は拡大しました。スイスであれば欧州全土から、香港ならアジア圏から富裕層が訪れます。香港の場合、毎年7万人の来場者があり、今年のフェスには35カ国、239のギャラリーが参加、4000点もの作品が出品される予定です。

内藤 聞くところによると、アートフェアはシーズオフの町おこしが始まりだとか。また、アート・バーゼルであれば、金融グローバルのUBSが協賛していて、日本でも開催される「アートフェア東京」だと、ドイチェ銀行がスポンサーだそうですね。

三井 日本人はアートをお金と結び付けることを好みませんが、海外では一般的にアートは資産として考えます。世界的な金融グループであるUBSは3万5千点の現代美術のコレクションを所有していますし、ドイチェ銀行は5万点以上の作品を所有し、世界中の店舗で作品を展示しています。プライベートバンクの顧客は富裕層ですから、資産ポートフォリオのひとつとして、美術品を紹介するわけです。アートフェアもそういった場として提供すると同時に、新規顧客獲得の場としても機能しています。ですから、出展者や作品にもこだわっていて、事前にどういった作品を出すのか主催者がチェックして、バランスの良い総合エンターテインメントとして形作ります。来場者は単に鑑賞に訪れるのではなく、購入するために足を運ぶわけですから、ぬかりありません。

内藤 事前に作品が選別されているので、大外れもなさそうですね。何を買えば・どこに行けばいいかわからないのなら、アートフェアがお勧めということですね。

三井 展示されるのは絵画、映像作品など様々。フェアを体感することで、その年のトレンドも理解できます。いま世界で人気があるジャンルは「コンセプチュアルアート(概念芸術)」や、「ミニマル・アート」です。

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例えばゴンザレス・トレスは人気の作家。包装紙に包んだキャンディを並べ、それを自由に取っても構わないという作品がありますが、2000年当時、そのような作品に4000万円の値がつき驚きましたが、昨年11月にクリスティーズに売りに出た時には、8億9000万円まで価格が上昇しました。キャンディの山が徐々になくなっていくことが死の過程を作品にメタファーし、現在の国際情勢を皮肉っているのかもしれませんね。

内藤 株式投資だと日経平均株価が大幅高といったところでせいぜい10%、20%といった世界ですが現代アートはゼロが一気に増える世界のようですね。もちろん、逆もあるのでしょうが。

三井 5年で3倍はよくある話で、10年で10倍になることも珍しくありません。新作の場合、アートの価格は作家とギャラリーとの交渉で決まりますが、一旦、市場に流通し始めると、オークションで決まることがほとんど。購入価格より下がる場合はここで起こりますが、大きな上昇もここで起こります。この段階での値付けは「前に出ていた作品に似ているから、この価格」「この作家は赤い作品より青い作品に価値があるといわれているから、値段を上げよう」というように、関係者によって値付けされていきます。他方、スマホを片手に購入者たちはマーケットやオークションの結果を調べているので、「いくらなら買おう」というように、適切な判断を下しています。

エンリッチ編集部

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