ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

Vol.1 アートの歴史を理解する 1/3

イタリア・ルネサンスの幕開け

13世紀から14世紀にかけ、ビザンティン帝国はモンゴル帝国やオスマン帝国から襲撃に合い、いよいよ1453年には滅亡しました。

一方、欧州の一地方に成り下がっていたイタリアでは都市国家が乱立していましたが、北イタリアは東方貿易で栄え、中でもヴェネツィアはシルクロードの交易点で、欧州全域で需要が高まった香辛料の商業条約を独占することで驚異的な発展を遂げることに。15世紀に入るとフィレンツェには美術の大パトロンとなるメディチ家が誕生して、華やかなルネサンスの最盛期に向かいます。

14世紀末~16世紀にかけて、西洋美術史でも大きなウェイトを占めるルネサンス期ですが、その呼び名は「再生」「復興」を意味するフランス語が語源。では、何を再生・復興したかというと、それは古典古代への回帰、人間性を尊重したギリシア・ローマ文化への「再生」でした。東ローマ帝国が崩壊すると、東から逃れた知識人がイタリアに流れ、東方貿易では外国の文化や情報も入ってくるようになると、イタリアはもともと古代ローマ時代の遺跡や思想が残っていたため、この時代の生き生きとした市民による自由な文化を取り戻そうという気運が高まり、これが古典復興=ルネサンスだというわけです。

裕福になった商人は各業種でギルドを作り、各ギルドの代表者が集まり国を運営するコムーネも誕生。その代表者が金融業で財力をつけたメディチ家であり、従来は絵画制作の発注主であった君主や教会に加えて、商人である個人顧客もパトロンになり、絵画の注文は増加の一途、次々と大きな工房が作られ、そこには多くの才能が集まりました。

ここに関わる芸術家はたくさんいて、皆さんも教科書で学んだはず。名前は覚えていなくとも、フラ・アンジェリコの「受胎告知」、サンドロ・ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」はあまりにも有名です。そして、ルネサンスは三大巨匠、レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロの3人によって一気に開花しました。これぞ美の頂点であり、美術の基礎にもなっています。

また、古代、中世からルネサンスの時代まで、絵画や彫刻の社会的地位は文学や音楽より一段低い家具職人と同等の扱いでしたが、そこでルネサンス期の芸術家たちは、礼拝用の道具としての絵画・彫刻に精神性と空間性を追求し、学問や崇高な芸術の域に引き上げることにも成功しました。画家や彫刻家は約400年もの歳月をかけて単なる職人から芸術家になったのです。

ーーー神々への崇拝、信仰の対象として始まったアートの世界。それはルネサンス期を迎えて頂点に達する。次回は引き続き、その歴史を追っていこう。

*この記事は2018年6月13日に掲載されたものです


三井一弘(みつい・かずひろ)
アートディーラー/アート解説者、ミツイ・ファイン・アーツ代表、水野学園理事。

1970年横浜市生まれ。国内で現代アーティストとして活動した後、アートディーラーに転身。ウィルデンスタイン(NY)の東京店にて、イタリア・ルネサンス絵画や印象派、現代美術など、多岐にわたり取り扱う。2016年に独立し、現在は古典美術から現代アート作品までコレクターに紹介する傍ら、現代アートとアート市場についてセミナーで講演するなど、精力的に活動を行っている。


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取材協力:CoSTUME NATIONAL | WALL 青山

エンリッチ編集部

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