ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

大山エンリコイサム 
現代アートとグラフィティ文化の関係を更新する

アートコレクションとは
それ自体がひとつの表現

大山:日本だと、アートを買うことは、お金を使うわけだから消費行動という認識がありますが、ニューヨークで色々な人と話して思うことは、コレクションすることは自己表現だということです。自分の感性に従って買う作品を判断し、それを家のどこにどう飾るか、あるいは所有作品が増えたら、ギャラリーなどの空間でコンセプトに基づいたコレクション展をする。

例えれば、DJが集めたレコードをクラブでプレイしてフロアを踊らせるのと同じで、コレクションは表現であり、すごく能動的な行為じゃないでしょうか。だからこそ、コレクターにもキャリアがある。コレクション力は経済力とも連動するけど、コレクターとしてのステージを上げることも醍醐味のひとつ。その考えが浸透すると、アートを買うことの認識が変わると思います。

E:以前、アートに関する法務の第一人者として知られる小松隼也弁護士へのインタビューで、海外のコレクターは単に作品を持っているだけでなく、能動的に作品の価値を高めていくというエピソードをお聞きしました。

染谷:大山さんは重層的な活動をする中からアクティブに価値が生み出されている作家だと思います。そうしたことを自身も認識して体現できる作家は稀な存在。普通は作家が作品を生み出して、ギャラリスト、キュレーター、批評家などが価値を高めていく。大山さんは制作と批評を通じて、自分自身をドライブさせているように感じます。

これまでストリートアートやグラフィティというと、バスキアやキース・ヘリングの作品が一般的に考えられていましたが、大山さんの研究や理論は別の側面から価値を与えられるかもしれない。アートだけじゃない、もっと大きな枠組みからイノベーティブな存在として仕組みを変えうる重要なポジションにいると思います。マルセル・デュシャンが新しい現代アートを発明したように、イノベーティブでありビジュアルとしても優れている。もちろん初めて目にする方にも響く作品として成立しています。

E:理論と制作の両輪で、作品の価値を高めていける作家ということですね。

大山:ただ、理論と制作といっても、そのふたつは同じ根っこから生じていて。結局、自分の感受性からでてくるものが、視覚的なかたちをとるか、言葉のかたちをとるかということに過ぎません。別々の源泉に由来するふたつのものを無理矢理擦り合わせても、違和感にしかならないんです。

僕はアーティストなので、究極的には作品にすべてが表現されています。その意味では、やはり僕の作品はリテラシーがなくても見てもらえるし、アートに興味があるけど、まだ詳しくない……、という方にも積極的に見てもらいたいです。


ニューヨークでの個展風景


OYAMA_202206
Enrico Isamu Oyama in his Brooklyn studio, 2018
Photo ©︎ Collin Hughes
大山エンリコイサム
 
美術家。1983年、イタリア人の父と日本人の母のもと東京に生まれる。グラフィティ文化の視覚表現を翻案したモチーフ「クイック・ターン・ストラクチャー(Quick Turn Structure)」をベースに壁画やペインティングを発表し、注目を集める。また、コム デ ギャルソンやシュウ ウエムラのコラボレーション、著書『アゲインスト・リテラシー─グラフィティ文化論』(LIXIL出版)の刊行など広く活動している。現在ニューヨーク在住。
 
公式HP:http://www.enricoisamuoyama.net


TEXT:舩山貴之

エンリッチ編集部

Return Top