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東芝問題からお金持ちは何を学ぶべきか?

日本人はリスクを嫌う民族だといわれており、貯蓄の割合が高いことはそうしたマインドを反映した結果と認識されている。だが筆者は少し違った見方をしている。

東芝の経営陣は、損失を表面化させたくないという理由だけで、通常ではあり得ないような無限大のリスクを背負うプロジェクトを進めていた。日本人は普段はリスクに対して過剰に反応するのだが、ひとたびタガが外れてしまうと、リスクが大好きな米国人でも尻込みしてしまうほどの、極めて大きなリスクでも平気で抱え込んでしまう。

日本人はリスクを嫌っているのではなく、リスクとリターンについて、少しアンバランスな感覚を持っていると理解すべきである。目の前の小さな損失を回避するために、将来にわたって生じる巨大なリスクを無意識的に引き受けてしまうのだ。

こうしたマインドは、ビジネスという観点でも、資産形成という観点でも大きなマイナスとなる。日頃からそれなりのリスクテイクを繰り返していくことは非常に重要なのだが、その理由は、不必要に大きなリスクを取ってしまわないための訓練になるからだ。東芝はその意味では最悪の決断をしてしまった。

日常的なビジネスや投資の世界でも、規模の違いはあるにせよ、東芝と同じようなケースがたくさんあるはずだ。こうした過大なリスクをどれだけ排除できるのかで、一生のうちに形成できる資産の額が変わってくる。

ちなみに東芝は収益事業であるメモリー事業を外部に売却することで、債務超過を回避することを計画している。メモリー事業の価値は高いので、売却が成功すればとりあえず財務的には一息つけるかもしれない。だが、米国の原子力事業が抱えている根本的なリスクが軽減されるというわけではない。東芝が今後、企業として存続できるのかは、原子力事業の過剰なリスクを排除できるのかにかかっている。場合によっては追加の損失も覚悟しなければならないだろう。まさに経営者としての胆力が試されている。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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