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実はポジティブ・シンキングではない

成功者ほど過去の失敗を悔やむ人はいない

ピンチに陥った時も同様である。ポジティブ・シンキングな人は、ピンチの中でもゆとりを持って、前向きに考えようとするだろう。だがたいていの成功者はそうではない。

長くビジネスをしていると、1回か2回は絶体絶命のピンチという局面を経験する。特に実業家の場合には、資金繰りなど極めて厳しい状況に追い込まれることもあるが、こうした人たちがもっとも嫌う曜日は何曜日だと思われるだろうか。それは土曜日と日曜日である。

いくら絶体絶命のピンチでも、土曜と日曜は休日なので、取引先や金融機関、訴訟相手とのやり取りはストップする。したがって土日だけは、多少、厳しい現実を忘れることができると普通の人は思うだろう。だが彼等にとって、物事がストップする土日ほどストレスが大きい日はない。

状況がどうなるのかまったく先が見通せない中、ただ日常業務が止まって、一切の情報が入らなくなるというのは、耐え難い苦痛なのである。仮に事態が悪い方向に向かっていることが明らかであっても、物事が進み、情報が入り、先の予想ができる平日の方がまだマシなのだ。

つまり成功者というのは常にリアリストであり、どんなに嫌なことがあっても、正しい情報に対する強い欲求がある。こうしたスタンスはいわゆるポジティブ・シンキングとはかなり違ったものであることがお分かりいただけるだろう。本コラムの読者の方は成功者が多いはずなので、この話は、ある程度、直感的に理解できるのではないだろうか。

ビジネスや投資で成功するためには、常に将来を見通す力が必要である。だが、それはポジティブ・シンキングというよりも、自分のビジョンや目標を何としても達成したいという、いわば「ミッション」のようなものであり、物事を楽観的に捉えるという話とはかなり違ったものである。何事もネガティブに捉える人がうまくいかないのは当然だが、最悪の事態を想定できなければ、結局は同じ末路となる。

成功者ほど過去の失敗について悔やみ続ける人はいない。あまりにも悔しいので、次は成功させてみせるという一種のリベンジが結果的に前向きな力の原動力になる。前しか見ないということをポジティブ・シンキングとするなら、それは成功とは正反対のマインドである。

*この記事は2019年10月に掲載されたものです

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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