ENRICH(エンリッチ)

The Style Concierge

権威に従順か、権威に逆らうか

ビットコインをどう認識するか?

最近話題となった技術で、シリコンバレーのこうした雰囲気を色濃く漂わせているのはビットコインである。ビットコインは、既存の秩序やシステムに対する反発とお金儲けが結びついた典型的な技術といってよいだろう。

ビットコインについては電子マネーの一種という解説も見られるがそれは違う。電子マネーはあくまで従来の通貨をベースに電子決済が可能になるよう基盤を整備しただけのものであり、従来通貨の決済手段の一部にすぎない。だがビットコインは、それ自体に価値が生じており、通貨の定義にもよるが、まさに通貨そのものといってよい。

多くの人は通貨は国家が管理するものだと思っているが、必ずしもそうとは限らない。通貨は多くの人がそれに価値があると信用して流通すれば通貨として成立する性質を持っている。ビットコインはまさにこの部分を突いた技術という点で、既存の秩序に対する挑戦ということになる。

ビットコイン対する人々の反応を見ていると非常に興味深い。お金に関して前向きな人は総じてビットコインに対して否定的ではなく、お金に対して後ろ向きな人ほど、ビットコインに対して否定的・批判的である。ビットコインはお金に関するちょっとしたバロメータになっているようである。

筆者が知る実業家のT氏は、現在ビットコイン関連のビジネスを立ち上げる準備を進めている。T氏はこれまでソフトウェア関連の事業をいくつも立ち上げており、多くを成功に導いている。ビットコインが本当に普及し、彼のビジネスが成功するのかどうかは誰にも分からない。だが、ここで重要なのはビットコインが普及するかどうかではない。T氏がビットコインのビジネスにチャンスがあると考えた理由である。

筆者がT氏にその理由を尋ねたところ、「メディアの論調やネットでの評判が総じて否定的だったから」という答が返ってきた。T氏によれば、世の中でヒステリックな否定や批判が起きる時というのは、その背後に大きなビジネスチャンスが転がっていることが多いのだという。

こうした日本におけるヒステリックな対応は、インターネット企業が台頭してきた時や、デリバティブなど新しい金融テクノロジーが上陸してきた時、最近ではスマホのアプリが普及してきた時にも、感じられたものだという。T氏は今回も同じ雰囲気を感じており、これはビジネスチャンスだと判断したという。

T氏にとって、ビットコインに対するマスメディアやネットのヒステリックな反応は、それに影響されるどころか、むしろ重要な情報源となっている。T氏のようにお金持ちになれる人というのは、お金に関する世の中の常識をそのまま信じることはない。常識を疑い、そのような常識がなぜ出来上がったのかについて関心を払う。見方を変えるだけで、それは大きなヒントになるのだ。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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