シリコンバレーの本当の姿
ジョブズ氏はその代表だが、シリコンバレーにはこうした権威に反発する資産家がたくさんいる。なぜシリコンバレーはそのようなカルチャーなのだろうか?それはシリコンバレーが発達してきた経緯を見れば納得できる。
もともとシリコンバレーは軍需企業の開発拠点として整備されてきたエリアである。
権威や国家権力に反発するヒッピーと軍需企業は正反対の存在に思えるのだが、実はそうでもない。アメリカは国家権力の側も相当なもので、天才的な能力を持ち権威に反発する人たちを、軍需企業を通じて囲い込み、その才能を兵器開発に応用するとともに、国家転覆に向かわないよう当局が監視してきたのである。だからインターネットという技術がもともと軍事目的で開発されたことには何の不思議もない。
シリコンバレーほどのスケールはないが、日本でも同じ図式が存在する。起業家として活躍してお金持ちになった人の中で、元左翼の活動家という人は意外と多い。
学生運動をやりすぎてまともな会社には就職できず、かといって革命が起こるわけでもない。怒りの矛先は、既得権益を持ち、ラクして給料を貰う公務員や大企業の社員に向かう。この仕組みをブチ壊すベンチャー企業を創業してやれというわけだ。左翼で労働運動をしてきたのに、経営者になるという矛盾はこの際どうでもよい。怒りの矛先が起業という点が重要だ。
左翼活動とは異なるが、悲惨な戦争体験から既得権益層に対する反発心が芽生え、事業拡大という野心に転じるケースもある。ダイエー創業者の中内功氏はその典型である。
中内氏は、一兵卒としてフィリピンに赴き奇跡的に生還した。日本軍が飢えとモノ不足で生きるか死ぬかという状態の時に、アメリカ軍の兵隊がアイスクリームマシンを使ってアイスを好き放題食べているのを知り衝撃を受けた。
戦後はこの体験をバネに、官僚主導の国家統制経済に真っ向から反発し、消費者が主役の巨大流通グループの育成に狂ったように邁進していった。もっとも中内氏の場合、拡大路線が失敗の原因となり、晩年には全ての財産を失ってしまった。