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ジョン・メイナード・ケインズ(経済学者、投資家)

経済活動というのは人の心理の集大成である

ケインズ氏は一連の取り組みから何を得ようとしていたのだろうか。もちろん投資なので、お金が目的ではあるのだが、ケインズ氏がもっとも関心を寄せていたのは人の心理である。

ケインズ経済学は、現在では難しい数式が並ぶ、かなりガチガチの学問というイメージだが、実はケインズ自身は数式というものをほとんど使っていない。実際「雇用・利子および貨幣の一般理論」を読んでも、ごく簡単な数式が少し登場するだけである。

ケインズ経学で使われている数式のほとんどは、後にケインズ理論を数学的に説明する過程で作成された。ケインズ経済学は、もともと心理学的なアプローチからスタートしている。ケインズ氏は、経済の動きというのは、人の心理と深い関係があると考えており、その仕組みを解明する過程で結果的にマクロ経済学が出来上がったというイメージだ。

経済活動というのは、人とのコミュニケーションの集大成である。人の心理とお金が密接に関係していることは、当然といえば当然である。だが人は、こうした本質を見誤ってしまう。

一旦、数式のような形で法則が定義されると、人はそれを所与のものとして受け止めてしまい、場合によっては思考停止に陥ってしまうのだ。筆者は大学で原子力工学を学んでいたので、日常的に数式を活用する習慣がある。数式を使うと面倒な話をスッキリ表現できたりするので、ついつい多用してしまうのだが、実はここに落とし穴がある。

時には、言語を使って柔軟に考え、ある時には数式を使って法則を一般化するという切り換えがないと、こうしたツールも無用の長物となってしまう。ケインズがもっとも重視していたのは、こうしたバランス感覚だと考えられる。

彼はこうも言っている。「正確に誤るよりは、漠然と正しくありたい」。確立された話を疑問を思わず受け入れるだけの人は、状況が変化すると100%正確に間違ってしまう。そうではなくバランス感覚を保ち、100%でなくてもよいので、常に漠然と正しいことの方が、ビジネスや投資には圧倒的に有利である。これはまさに名言である。

経済学や経営学は机上の空論であり、ビジネスや投資には役に立たないといわれる。だが、それは経済学や経営学の理解の仕方が不十分なのであり、ケインズのようにその本質を理解できていれば、理論と実践は両立できる。そのよい証拠がケインズ自身ということになるだろう。

加谷 珪一 (かや けいいち)

経済評論家。東北大学卒業後、投資ファンド運用会社などで企業評価や投資業務に従事。その後、コンサルティング会社を設立し代表に就任。マネーや経済に関するコラムなどの執筆を行う一方で、億単位の資産を運用する個人投資家の顔も持つ。著書「お金持ちの教科書」(阪急コミュニケーションズ)ほか多数。

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