ENRICH(エンリッチ)

住友林業_TOPバナー

実行「前」に生じるリスクとその対応策 後編

mr.iwasaki_0

前編に引き続き、本稿でも、M&Aの実行前の段階において起こりやすいトラブルとその対策について取り上げます。(→前編はこちら)具体的には、株式譲渡契約を締結したにもかかわらず、買主から一方的に実行を拒絶されたり、契約を解除されてしまった場合にどのように対応するべきか。売主側の目線でポイントを解説していきます。

1. 買主から実行を拒絶されたときの対応

株式譲渡契約の締結からクロージングまでの間、売主が最も注意を払うべきは、買主による実行拒絶のリスクです。

買主が実行を拒絶する理由として最も多いのは、契約書に記された「充足すべき実行条件」(=実行条件)が満たされていないという主張です。実行条件の例としては、必要な許認可の取得や、「チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項」への対応、すなわち株主や経営体制の変更によって契約解除を招かないための、取引先からの承諾取得などが挙げられます。

通常、この実行条件は表明保証条項と連動しています。表明保証条項とは、契約の一方当事者が他方に対し、対象会社の財務状況や法務関係等について、ある時点においてそれが真実かつ正確であることを表明し、保証するものです。

実行条件が表明保証違反と連動している場合でも、「すべての表明保証が正確であること」を条件とするのか、「重要な点において正確であること」を条件とするのかによって、実行拒絶の可否は異なります。また、一部の特定の条項のみを実行条件と連動させているケースもあります。そのため、買主から実行を拒絶された場合には、指摘された違反の内容が、契約上の実行条件を不充足とするほどの重大性を有しているかを精査しなければなりません。

その他、契約段階において、買主の都合で一方的に契約を破棄されないための条項の設定も重要です。

たとえば、買主が資金調達に失敗した場合に無償で解約できる「ファイナンス・アウト条項」や、契約締結からクロージングまでの間に対象会社の事業等に重大な悪影響が生じた場合に実行を拒否できる「MAC(重大な悪影響)条項」を許容するか否か、あるいはその適用範囲をどこまで限定するかについては、慎重な判断が求められます。

2. MAC(重大な悪影響)条項への対応

MAC条項は、契約締結後に対象会社の事業等に重大な悪影響を及ぼす事情が生じた場合に、買主にクロージングを拒否する権利が与えられ、買主が原則として解約料の支払い等の負担を負うことなく契約を解除できる、いわば「撤退カード」としての側面を持ちます。実務上は「事業、資産、負債、財務状態、経営成績、キャッシュフロー、その他の状況に重大な悪影響を及ぼす事由が発生していないこと」といった包括的な規定が置かれることが一般的です。

しかし、このような抽象的な規定では解除の基準が不明確であり、売主のリスクが過大になります。そのため、売主としては、仮にMAC条項自体は受け入れるのだとしても、「重大な悪影響」の範囲を可能な限り絞り込む交渉が必要です。

具体的には、天災、感染症の流行といった不可抗力や、日本国内の経済情勢・金融市場の混乱、当該業界全体の構造的変化など、対象会社固有の事情によらない外部要因については、MAC条項の適用対象から除外(カーブアウト)する調整が不可欠です。

iwasaki_150
岩崎隼人

Return Top